最近私の1つの興味として、紅茶の業界では有名?らしい「ジャンピング」をシミュレーションで再現できるか?というものがある。
適当なYouTube動画でも当たって欲しいのだが、ジャンピングとはポットに茶葉を入れた後、そのポットにお湯を注いでからの抽出時間中に、ポットの下部に溜まった茶葉が浮き上がると同時に上部に集積した茶葉が少しずつ沈む現象(だと私は認識している)である。
物の本ではジャンピングが「紅茶を美味しくする秘訣」だそうなのだが、別の人に曰く「ジャンピングにこだわる必要はない」という。
私の立場も後者だが、そうはいっても、ジャンピングを物理理論に基づいて説明したり、それと茶の抽出をやはり理論的に説明してその上でのジャンピングの効果を検討してみないことには収まりがつかないところである。
ジャンピングを説明するには何が必要か?
いちいち細かいところを気にするよりまずは大枠から、さらには現象的な「答え」から探るのが手っ取り早い。
ジャンピングを起こすには、一部の茶葉は浮き上がり、別の茶葉は沈まねばならない。浮き上がるということは上向きの速度で安定、沈むのは逆である。
(注:水中の茶葉が浮き上がり続ける間や沈み続ける間常に加速するとは限らない。むしろ、摩擦によって速度が安定すると捉えるべきだろう)
茶葉に働く力を考えよう。
まずは重力である。これは地球上では避けられない。おそらく一様な重力で良いだろう。
次にお湯と接触することで茶葉が受ける力である。これは力の向きが茶葉の表面に対して平行な成分と垂直な成分で分類できて、前者が「摩擦」後者が「圧力」と言われる。
実質、これだけである。
というか、流体力学つまり流れを扱うあの分野の基本方程式ナビエストークス方程式は言葉で言えばこれとニュートンの運動方程式を組み合わせた、これだけのことである。
つまり、
質量×加速度=力=重力+摩擦+圧力
である。
※ここで少し勉強した人だと「お前圧力は次元違うだろ!!」と怒ってくるかもしれない。まあ、それはそうなのだが、それは「圧力」という名前にしたがそれをもって「圧力を表面全体で面積分したもの」と理解してくださいな。つまり、面積をうまい具合に掛けて次元を合わせてるのでご安心を。摩擦にしても同様。
重力は常に下向きで、圧力については、周りに流れがない「静的な」場合(今回この条件は実質満たされていると考えることにする)で加圧もしていない場合にはアルキメデスの原理と通常言われている「浮力」に化ける。
したがって、重力+圧力は
茶葉の密度>周りの湯の密度
では下向き、そうでない時には上向きの力になる。
ここで早とちりしてどの向きに動くかを決めつけてはいけない。次の摩擦項が大事である。
摩擦は流体の場合によく使われるのは
周りの流れとの相対速度に比例した大きさで、相対速度を縮める向きに働く
というもの。
お湯に流れがある場合、茶葉がお湯の流れに乗るのはこの摩擦があるおかげである。お湯と茶葉が擦れる、つまり、「相対速度がある」ことに対応してその時摩擦力が擦れる相対速度を落としてくれるからだ。
※これだけで説明できるかというと若干ラフで、流れがあれば圧力が物体を押し流す力を作用させそうなところだったりするが、それでは上手くいかず、摩擦が本質的に効いていることがわかっている(cf.ダランベールのパラドクス)
ジャンピングの「対流説」は対流によって流速がある環境下で摩擦が作用して茶葉が対流に乗るという理解だろう。
リンアンの堀田さんの記事では堀田さんは対流説に反対している。私もそうだが、これは動き方自体が対流とは必ずしも一致せず、また、対流ならばお湯の中に空気があるなしで変わるとは考えにくい。
茶葉が浮き上がったり沈んだりするのは重力と浮力のバランスも影響していることを思い出そう。高密度なら下向き、低密度なら上向きの力で、摩擦がこれを抑制する向きに働く。
これを考えると低密度な茶葉が浮き上がり、高密度な茶葉が沈む、それが同時に起こる現象という可能性が出てくる。
しかし実はこれも少し変である。
というのも、だったらなぜ最初から高密度な茶葉が下、低密度なら上というふるい分けが効かず、緩やかに抽出時間くらいを掛けて行き来するのか?
私の推測では密度が抽出中に変化する効果があるのではないかと思っている。
というのも、茶葉は水を吸うし、水中の溶存気体が茶葉に付着する現象もある。
あるいは特に浮いている方だが、表面張力の類の力が影響して先の力の方程式が成立していない可能性がややある。
ということで、ジャンピングをシミュレーションとして再現するには単純な流体シミュレーションに使われる式つまり先の
質量×加速度=力=重力+摩擦+圧力
に対して重力や圧力を茶葉の吸水効果や気泡の付着を含めたかなり複雑なシミュレーションが必要なのではないか、と推測している。
私は数値計算は素人なので誰かコメントくださいもし良ければシミュレーションしませんか?