今回「教習所の珍・物理学と素朴概念」という題目で講演させていただきました。

 

今回は「ゆるい物理」として、物理としては初歩の力学を、「初歩の力学さえ学んでいない人たちが、本当に無学な人たちさえ相手にするような課程」に落とし込んだ時に起こっている事象を取り上げ、それを教育心理学上の概念を持ち込んで、紹介させていただいた次第でした。

 

ちゃんと伝わったかどうかはわかりませんが、今回の講演の目的は素朴概念というところにあります。

素朴概念というのは講演でも言及させていただきましたが、要は

「日常経験を過度に一般化して作った、誤った概念およびその理解」

といったところのもので、教育心理学の方面ではいくらか扱われ、特に物理教育は多くこの問題があるように言われるようです。

 

「素朴概念を打破せよ」という類のメッセージを最後に流させていただきましたが、おそらくは素朴概念は素朴概念で塗り替えられるに過ぎないし、そもそも、一つの理解だけが科学の唯一の理解であるとも限りはしません。むしろ、同じ状況を説明する複数の説明が存在して、それぞれが対立をしたり、あるいはなんらかの非自明かもしれないが、等価性を示されていくなかで、知見が広がることもあるわけで、「打破」などというのは本当に初歩の勉強から、何十年も前に確立したような範囲までのところでこそ適切な表現かもしれないものの、いくらかやはり安直な感じもあります。

 

ともかくも、物理としては緩く?(緩くない話も出ちゃいましたが...)、しかし講演としては厚みのある、少し文系よりの、学際的なことをさせていただき、その点も含めて、「文京科学大学」らしく、進めることができました。

 

次回に関して考えている構想があります。

 

・「中学理科からはじまる電磁気・電磁波」(ハイエンド向け)

今回お蔵入りになった「中学理科でわかる電磁気・電磁波」を、中学理科の観点だけだと厳しくなってしまう部分を紹介するなどして「中学理科からはじまる電磁気・電磁波」として講演する案です。

 

・「電気回路とエネルギー」(ハイエンド向け)

電気回路で電源のエネルギーがどのようにして回路素子まで伝わるかを議論する案です。

 

・「量子論と測定のお話」(ハイエンド向け)

私の一応専門の分野です。「射影公理」からはじまり、POVMや、間接測定の議論など、量子論の発達によって定量的に切り込まれる対象となった「測定」の話をする案です。私の修士の研究テーマ、弱測定に行き着くかな?

 

・「温度計とその日本史」(ローエンド向け)

温度計を物理として考えるのは結構レベル高めではあるのですが、世界史の話になるとそのような物理的概念を踏み込む感じになって重い気がするのですが、日本史なら温度概念自体は素朴なままでもいいというか、温度計が日本に入り込む以前と以後を比較し、その変化を体験しつつ、数値で定量的に評価することがもたらしたメリットと、しかし定量的であろうとするだけで科学的とは言えないであろう事例を見るなどして、「科学とは何か」を考えさせるような案です。

 

・「生物研究がもたらした電磁気学の革命」(ローエンド向け?)

タイトルこそ驚くべきなのですが、実際は電池の発明からマクスウェル方程式の完成までの話です。ただし、電池というものがある着眼点から見ると何桁もスケールを変化させるもので、そのスケールの変化によって、電磁気でできる実験が大きく違う状況が生まれ、それがマクスウェル方程式にどのような「変化」をもたらしたか、という描き方で?、静電気・磁気→電磁気の理論・応用→マクスウェル方程式の完成をみて、さらにその後の応用を見ることで、著しい電磁気の発展がもたらした影響を垣間見ようというものです。

 

構想はありますが、それまでに講演技術を磨いておきたいですね。