磁性流体というものを聞いたことがあるだろうか?あるいは下の写真でも見ると分かるだろうか
(出典:https://pixabay.com/ja/液体-磁性流体-スパイク-17-マクロ-マグネット-光沢のある-709502/)
磁性流体の特徴といえば何といってもこのスパイクである。
磁性流体に磁石を接触させると磁石からさも何かが出ているかのようにこのスパイクが出てくるのである。
そして、多くの「簡単な説明」で「磁力線をみている」かのような言われ方をします。
また、たとえば
http://www.mftech.co.jp/contents.html
で書かれているような、
「磁石から出る磁力線に沿って磁性流体が集まる」
といった言われようがなされるものです。
磁力線は果たして我々のイメージするようないわゆる「線」なのでしょうか?
もしそうだとするならば、線と線の間の隙間に物体を入れたらどうなるの?という疑問が起こりませんか?
このような問題提起自体は割とありふれたものだと思います。
もし、子供たちを相手に親御さんなど、磁石の原理を説明するときによく本に書かれているような「磁力線」を話すのであれば、子供達からこの質問をされても応えられるようにしておかないといけないのではないか、と私は思う。
磁力線というもの、物理の理論での定義をいえば次のようなものだと思えばいい。
つまり、いろいろな場所ごとで、磁石がどれだけ、どの向きに力を受けたかをひたすら測って地図を作り、各々の場所ごとの、磁石が受ける力の向きに動いては向きを確認し、またその向きに動いては...という操作を繰り返したときにどう動いていったかを繋いでいったものを「磁力線」という。
この定義に即せば、「磁力線があるから」磁気的な力を受けたというより、むしろ逆に、磁石が力を受けることありきで、それに即して描かれる線という方が正しくて、論理的に「磁力線があるから」じゃあないだろ、という雰囲気もある。そのあたりについては幾らか注意するべき点があるため、今回は保留するが、静的な問題を考えている限りは磁力線ありきよりは、むしろ磁力を受けている、その現象ありきのように見える。今回の場合にはそう考える方が筋がいい。
という立場に立てば、まずあるのは、いろいろな場所で磁石がどう磁気的な力を受けたか、を調べ尽くすというのが先で、それは実際のところ、特定の場所だけ強くて、隙間ができているようにはなっていない。「磁力線同士の隙間」というアイデアは実のところ破綻しているのである。明確に「どこに」磁力線が通っていて、それ以外のところは通らない、というものではない。あるいは、磁力線は本来一本一本は影響力がないが、本数が無限にあって、さらに、場所によって、通っている本数の密度が違う状況を、有限の本数で「近似的」にお絵描きしたのがよくある磁力線の絵、というところだろうか。
となると、である。磁力線は特定の場所にだけあるわけではない。しかし、磁性流体のスパイクはそうではない。有限個の本数があって、とげとげしていて、「本当に」、お絵描きで書いている磁力線かのような、そういう見え方になってしまう。すると確かに中学校の授業的にはお絵かきで書いている磁力線がそのものできてるでしょほら、ってなって収まりがつくが、これは大人の事情による欺瞞かもしれない。
すくなくとも、有限の本数で近似的にお絵描きしたものは、本来の磁力線とは合っていない。が、しかし、有限の本数の、さも「磁力線」お絵かきのようになる原因は何なのだろうか。
ヒントをいって今日は終わりにしよう。
磁性流体にせよ、鉄粉で描く磁力線の場合にせよ、そうした磁性体は、自分自身が磁石としての性質を持っていることに注意してほしい。つまり、最初に置かれた磁石の力だけが、その磁性体周りでの磁石の力の原因になっているのではなく、磁性体が作り出す、磁場も含めて、考えなくてはならない。
物理屋さんだとこのことがわかると、磁性流体のスパイクの理論は殊の外難しいのではないかと、ひょっとすると察しがつくのではないだろうか?
気が向いたら次にそのようなシミュレーションの議論を紹介して終える。