電磁気学の教科書は本当にたくさんある。しかし、基礎の部分をちゃんとおさえ、しっかりとしている本となると意外と少ない印象がある。
(1)一通り押さえていくタイプの入門書
学部生に入った時に、高校まで優等生だった人たちは「基礎」の本を読まなくても「応用」がやれてしまった勢いでGraduateのテキストを買って「うわっ!」ってなるケースがあることを時たま聞くし自分もやっているのだが、そういう人たちが本来手を出すべきジャンルとして位置付けておく。
加藤 電磁気学
東京大学の教養学部での授業をベースとした本。冒頭で電荷の保存則を扱い、また、電荷や電流を物質に結びつけられた性質として表記した上で、電場、磁場の議論をしており、その意味では電荷や電場などの基本概念をちゃんと押さえている印象は持てた。また、BとHの関係など、他書では乱暴に扱われる部分も丁寧に議論されている印象を持った。扱っている題材やその具体的な計算の丁寧さの側面も含めてトータルで評価すると後に出てきた多くの本に負けているかもしれない。しかし教養的な本としては優れているように思う。一回理解を深めてから見返すと味がある、入門書ながら入ってから見返すべき門、なようにも思う。
横山 電磁気学
数学のアペンディクスが充実している一方でそれが逆に私を悩ませた記憶がある。電流と電荷の関係や、その単位の構成の仕方について高校でのやり方を問題視したり、小学校の割合の扱い方など、教育に対する筆者の考え方や問題意識が明確に書かれているのが特徴である。とはいっても電磁気学の内容自体は突飛な印象を持ってはいない。型通りの内容を一部誤解されたり、当人が重要視している点について強調しているような感触をもっている。
(2)高校と大学を穴埋めするタイプの入門書
大学の入門書という類の本は高校の内容をしっかり押さえている人ならさほど問題はないはずなのだが、高校で挫折してしまった人や、受験で物理をしっかりと学んでいない人も少なからずいるはずで、そういう人たちをターゲットとして、穴埋め用テキストというのが一定数出ている。
為近 物理の基本ノート電磁気学編
受験対策で有名な為近氏のノート。さりげなくマクスウェルの方程式まで到達できるもので、図説を上手に使いながらうまく説明を広げているように見える。もっとも、これだけで済ませてしまえるようにはおもえない。ただ、教科書というものは何が大事で何が大事でないかをちゃんと読み解いてしっかり理解していくには大変なもので、大切でないところを捨ててしまった上で大切なところをうまく描き出している本は大事なものである。
杉山 理論物理への道標
基本線としては「受験用参考書」の扱いであり、その枠組みのもとで大きくそれを逸脱して書かれた本。大学の側から見ると物足りない点があったり、逸脱が激しすぎたりでやっぱり中途半端なような気もする。高校と大学の橋渡しとしての役目をしてくれる本として考えると量的側面や高校との接続部分だけを見るといいけれども、これを軸にして大学と高校を繋ぐのは危険な気がする。
(3)上級の教科書
Graduateの教科書とまで言ってしまうと大仰ながら、かといって「入門書」というほど入り口に接していない気がする本たちを取り上げる。
砂川 理論電磁気学
言わずと知れた砂川。「式を丁寧に追うとあまりよくない」とかいう酷評も聞くし、また自分自身わからないと思ったこともある反面、構成はみやすいし、多くのことが書かれていて、結果として和書で電磁気と言えばコレ、という本にもなっている。筆者はジャクソン派なので実はあんまり読んでないのだが、構成のよさではこっちのほうが好き。
ジャクソン 電磁気学
ジャクソンの電磁気学である。「これをアッパーミドルにするか!」という声が聞こえてきそうだが、電磁気という観点で関連する事項に幅広く手を出した結果ではあるが、その手を出した先の事項を紹介する紹介本のように機能している側面が多々あって、そういった先の分野を大学院で学ぶための入り口紹介本のような匂いを感じている。大学院に入る前に研究室は決めてしまうわけだから、何を勉強するかも決めるわけで、そう考えるとUndergraduateのアッパーミドル本のようにも思う。「電磁気学」という分野の管轄範囲を少し広めに考えていると思うといいだろう。
構成は大枠は歴史順序に従って、静電気、多極子、磁気、電磁波、導波管、放射、散乱、相対論、制動放射と、だんだん高エネルギー化していく。
一定程度の数学や他の物理の知識が必要だが、ある一定の目線を持てれば各論を大枠として歴史順序に従ったところに寄せてきましたという印象で、辞書的な本だと思っていいだろう。