私は鉄道ファンである。
ということで日本全国の数多くの鉄道を乗ってきたのだが、やはりこれも公共インフラ整備政策に翻弄されてきた数多くのものを見ることになる趣味である。
で、タイトルにある「電化」である。
日本の鉄道の電化方式を分類するにあたって基本的には
「直流」「交流50Hz」「交流60Hz」
それぞれに対して電圧値を割り当てるように分類すればいい。
ここで交流を周波数で分類しているが、実際の所勘違いされているように思うのは
「直流」か「交流」かが大事と言うよりは「何ヘルツ」か、が大事だと言うことである。
つまるところ、「直流」と言われたらそれは「交流0Hz」と私は言いたい。
さて、そう言ってしまうと
0Hz、50Hz、60Hzの3つの周波数があるがこの違いは何かというと、日本の商用周波数が50Hzおよび60Hzであるから、後者二つは
「商用周波数をそのまま送電します」
という方式である一方で、0Hzというのは
「周波数を変更して送電します」
ということになる。
調べてみると現在でこそ鉄道の交流送電の電圧20000Vは鉄道用の規格というイメージだが、大昔は本当に変電所での出力電圧の数値そのままだったようで、要は交流電化というのは
「電力会社からの電気をそのまま使いましょう」
という方式で、一方の直流は
「電車で消費する時に都合のいい電気に変換しておきましょう」
という方式なのである。となると、交流電化は変電設備はほぼ不要で電化コストがかからない一方で、直流は面倒で電化コストがかかる、と言うのがわかるだろう。
電車で消費する時に都合のいい電気は今も昔も直流である。正確には周波数0Hzである。昔は直流モータに抵抗を挟んで適当に電流を調整する簡単な方式で制御していたのだから当然と言えば当然、今使っている電車のモータは大半が交流モータなのだが、実はだとしても、直流の方がいいのである。
というのも、電車のモータなどというのは速度に応じて回転数が変化する。また、交流モータというのは、その回転数と流すべき電気の周波数が比例するような構造になっている。つまり、50Hzそのままとか60Hzそのままというのは速度も何も変わらない、一定速度で回すということしかできないのである。
交流モータは電車で使うにはそういう周波数を自由自在に変える回路が必要で、結論から言うとそういう操作をトランジスタのスイッチ操作だけで実現するのが可能なのはやっぱり直流なのである。(cf.チョッパ制御、PWM)
てなわけで、鉄道の電化はベストは直流なのだが、直流にする変電所の設置コストが高いので地方に電化を進めるにあたっては交流にしよう、という話で北海道、東北、北陸、九州の路線には交流電化が採用されてしまった。
のだが、これが概ね失敗だったのではないか、とやっぱり思う。
まず、電力会社の送電電圧が変更されてしまって、交流電化の区間でさえ鉄道用の変電所が(直流の場合に比べて少ない数ではあれ一定程度)必要になってしまったこと。
最近では電車が「電力回生ブレーキ」を実装するようになったため、鉄道専用のインフラが交流でもより必要性を増している。
次に、交流電車が高価である点。交流電車は地方で採用されるので生産数も少なくなりがちで、また、利用者数の多い直流電化の区間から直通するには「交直電車」つまり両方に対応した電車まで必要になる。変電所でしていたはずの機能を各車両に実装するためコストが高い。しかし、そういう地方ではそもそも「赤字路線」と言うことがほとんどである。つまり、
「儲からないから安い電化方式にしたけど今度は車両が高くて全体コストが下がらない」
という結果を生み出してしまうのである。
要は「安物買いの銭失い」状態を多くの交流電化区間で見ているような気がしてならない。
特に交流電化区間は「架線下DC」が多数見られる。つまり、電化しているにもかかわらず、ディーゼルカーを走らせている、と言うケースだ。
北海道の苫小牧-室蘭、肥薩おれんじ鉄道などがそれに当たる。
どうも電化から時が経つにつれ、交流電化のデメリットは増え続け、直流電化の優位性が高まっているようだが、さらに都合が悪いのは、一旦電化してしまうと方式を変更するのがこれまた初期投資が高くてこれまでの投資が無駄になるということも挙げられるだろう。
茨城県は首都圏に最も近い交流電化地域だが、本数も多く、東京都の直通需要も大きいため、高価な交流・交直流電車を導入するメリットがもともとないようなはずな場所。それでも交流電化となった理由とされるのは石岡市柿岡にある「地磁気観測所」で、ここでの測定に直流電化によって生じる電流が問題を起こし、移転をするにも過去のデータとの対応で都合が悪く移転しづらい、というものがあるのだが、のちの研究で、移転しても短周期測定は問題が生じず、移転で問題が起こる長周期測定は直流電化で問題が起きないようで結論から言うと直流電化を実現するために部分的に移転するようなことは可能だと言う話である。
だが、そのことがわかったのちに開業したつくばエクスプレスを含めて交流電化をやめていない。おそらく、やめられないのである。鉄道会社からすれば確かに長期的に見れば安い直流電車のほうがいいのだが、既に交流電車を導入してしまっていて、さらに電化設備に新たな投資は必要だが、そのリターンが少なくとも十年単位でみてゼロという沼に落ちている。
観測所としてももちろん移転はコストがかかってメリットがあるわけではないので鉄道側が移転圧力をかけてこない限りは柿岡にいたいし、鉄道側も確かに長期的には不利益だが、むしろ柿岡に地磁気観測所があってくれれば、既存の電化設備の変更や車両の更新の外的圧力を受けずに済む。
後ろ向きながら、地磁気観測所と鉄道会社はおそらく短期的には利害が一致している。
仙台近郊あたりの鉄道も交流電化がさほどメリットのなかった地域ではないかと思われる。特に現在「仙石東北ライン」と銘打って元から直流の仙石線と電化時に交流を選んだ東北線を接続して石巻と仙台を速達する接続線を設置しているが、その間を走る車両がハイブリッド気動車と言う状況が生じている。
交流電車と交直流電車はさほどコストは変わらない。接続線は300mほどしかなく、仙石線の直流電化を持ってきてデッドセクションでつないで交直電車を走らせるのがスジなところを、これまた高価な新方式であるハイブリッド気動車である。ほとんどメリットなどない。
おそらく、デッドセクションで止まれない交直電車の性質と、安く整備するには分岐点を平面交差にして通過速度を落とさなくてはならない事情あたりが絡んだのだろう。ハイブリッド気動車なら新技術で印象がいいと言うのもあったかもしれない。
しかし、これこそ「架線下DC」である。走行区間の99パーセント電化されていて、全く電気を使わない「ムダ」をしてくれている。
福島や郡山あたりも需要がなくはない。黒磯止まりの直流電化だが、そもそも論として西日本のより閑散とした地域でさえ直流電化の中で交流電化のメリットなどなかったのではないか。