大学では煎茶同好会などというマイナーな同好会でも活動しておりまして、お茶を入れる、とそれまた物理のエッセンスを感じ取れるもの。
どういう点で、か
まず、一つ目に
お茶を出すとき、茶葉の量やお湯の量、お湯の温度、出す時間といった条件を整えれば、そこそこ同じような出方をする。
という事実だろうか。
ミクロなスケールで見たらお茶の成分が葉からお湯に溶け込むダイナミクスは極めて複雑な対象となるはずだが、ある種の非平衡のダイナミクスでありながら、少なくとも人間の必要とする意味では、そう言った外的なパラメータを弄るだけでうまく結果を誘導できる。
ミクロな構造、ミクロなダイナミクスそのものを直接的に支配することはそう言ったマクロなパラメータには不可能なことである。しかし、マクロな結果においては、確実に結果が現れる。
熱力学という分野が成立しているのはそう言った内部構造には関係なしになぜか現れるマクロなパラメータ間の(しかし多くの人間にとって自明と思われているような)関係性の存在という観測事実である。
しかし、その熱力学が現時点までに説明可能な範囲を少なくとも大きく広げてもなお、まだ記述できても不思議ではないだろう、ある種の秩序性を見出せる現象が多数存在する。
というのはかなり現代の物理の最新研究でも目指している方向にある方向性を意図した感覚である。
もっと古くからあるだろう、しかし、日常感覚でどうも身につけたいような方向性を考えてみたい。
煎茶の手前ではよく「玉露」と呼ばれる高級茶を用いる。玉露というのは、収穫前の一定期間、葉に日が当たらないように被せ物をしておくもので、通常の茶葉に比べてテアニンなどの旨み成分が増加し、苦味成分が減った茶葉、ということだそうで(私は食品に含まれる成分などは素人)、独特の味を持っている茶葉なのですが、玉露を楽しむには成分の性質に応じて上手に出さなくてはならない。
性質として、
「旨み成分はアミノ酸で、低温でも溶解するが、苦味成分は温度を上げるほど溶けやすくなる」
ということが知られている。(中学校の「溶解度」あたりの議論を思い出せば一応説明できる気がするが、溶解度は溶解する限界を指し示しているけれど、実際にお茶で出すときにはそこまで溶けきっているとは思えないので、単純にそのパラメータだけで説明がつくようには思われない)
とりあえず、そういうことで温度を変えて抽出するのだが、その時にある程度温度を調整するために「湯冷し」という道具があったり、普段からお茶を入れる習慣があればわかるだろうが、茶葉の量も大事な要素で、それを意図して急須に茶葉を入れる時に、どれだけ入れればいいか、を見る上で「茶合」という道具がある。
湯冷し、の動作原理(?)はご存知か?
湯冷しが湯をさませるメカニズムは全て「熱力学第二法則に基づく平衡状態への遷移」という意味では共通するが、熱力学第二法則によれば、温度の異なる物質二つで熱のやり取りができる環境にすれば、自発的に温度が一定になる方向に遷移する(ただし、今述べているのは「最終的には」という文言を付与するべきで、現実的には外部からの力学的操作などを本当はすべて考慮する必要があり、いくらか短絡的な発想ではある。力学的仕事が全くないような状況というのは例えば耐圧容器を使用したり、化学反応が起き得ない状況を作るなどすることが求められ、実は案外難しい。)ことが知られている。
到達する温度は二つの物体の各々の遷移する前の温度の間の温度になる。
では、冷ますとしたら、湯よりも冷たいものを用意し、それと熱のやり取りができる(また、できる限り早く平衡に達するような)、環境を用意するのが望ましい。
湯冷しとは、まずその点で、お湯より冷たくなくてはならない。そりゃ、沸かしたてのお湯なら、いいのだが、例えば、とても熱いお湯を注いで熱くなった「湯冷し」に冷水を入れたら、逆に冷水の方が温まる。
いい湯冷しとは、湯冷し自身が温まりにくい、また、熱のやり取りが早く、平衡状態にはすぐに達せられるようなものである。
湯冷し自身が温まりにくい、というのはすなわち、「全体として熱容量が大きい」ことが求められる。湯冷しの大きさは常識というものがあるわけですから、大きさが決まってしまうとなれば、「比熱が大きい」素材でできていることが望まれる。
平衡状態にすぐに達するには、湯冷し内部での熱の移動が素早く、湯冷しの温度がすぐ一定になるもの。つまり、「熱伝導率が高いもの」が良い。
さて、後者の特徴を持つと他にもいいことがある。湯冷しは実際にはお盆等の上に置かれていたり、空気と触れるなどして、熱のやり取りが行われる環境がある。後者の特徴を持つと、そう言った環境との熱のやり取りによっても、冷えやすくなる。
さらに、そういう性質を持った湯冷しであれば、手で持った時に湯の温度を測るのが測りやすい。
測りやすいというのは、熱い場合には「もてないほど熱い」という状態がわかる、というような意味も含む。すなわち、常識的な操作としての、測るという「行為をやりやすい」という意味ではない。
玉露の一煎目は40度程度の低温で出すと良い。温度計などを突っ込むという現代的な手を使ってもいいのだが、お点前でそういうことができるわけでもなし、日常でもそういうことをするわけでもなし、実際に湯冷しを手で「持って」測るのが、ベストなのである。
茶合で茶葉の量を「測る」ということについては次回に。
どういう点で、か
まず、一つ目に
お茶を出すとき、茶葉の量やお湯の量、お湯の温度、出す時間といった条件を整えれば、そこそこ同じような出方をする。
という事実だろうか。
ミクロなスケールで見たらお茶の成分が葉からお湯に溶け込むダイナミクスは極めて複雑な対象となるはずだが、ある種の非平衡のダイナミクスでありながら、少なくとも人間の必要とする意味では、そう言った外的なパラメータを弄るだけでうまく結果を誘導できる。
ミクロな構造、ミクロなダイナミクスそのものを直接的に支配することはそう言ったマクロなパラメータには不可能なことである。しかし、マクロな結果においては、確実に結果が現れる。
熱力学という分野が成立しているのはそう言った内部構造には関係なしになぜか現れるマクロなパラメータ間の(しかし多くの人間にとって自明と思われているような)関係性の存在という観測事実である。
しかし、その熱力学が現時点までに説明可能な範囲を少なくとも大きく広げてもなお、まだ記述できても不思議ではないだろう、ある種の秩序性を見出せる現象が多数存在する。
というのはかなり現代の物理の最新研究でも目指している方向にある方向性を意図した感覚である。
もっと古くからあるだろう、しかし、日常感覚でどうも身につけたいような方向性を考えてみたい。
煎茶の手前ではよく「玉露」と呼ばれる高級茶を用いる。玉露というのは、収穫前の一定期間、葉に日が当たらないように被せ物をしておくもので、通常の茶葉に比べてテアニンなどの旨み成分が増加し、苦味成分が減った茶葉、ということだそうで(私は食品に含まれる成分などは素人)、独特の味を持っている茶葉なのですが、玉露を楽しむには成分の性質に応じて上手に出さなくてはならない。
性質として、
「旨み成分はアミノ酸で、低温でも溶解するが、苦味成分は温度を上げるほど溶けやすくなる」
ということが知られている。(中学校の「溶解度」あたりの議論を思い出せば一応説明できる気がするが、溶解度は溶解する限界を指し示しているけれど、実際にお茶で出すときにはそこまで溶けきっているとは思えないので、単純にそのパラメータだけで説明がつくようには思われない)
とりあえず、そういうことで温度を変えて抽出するのだが、その時にある程度温度を調整するために「湯冷し」という道具があったり、普段からお茶を入れる習慣があればわかるだろうが、茶葉の量も大事な要素で、それを意図して急須に茶葉を入れる時に、どれだけ入れればいいか、を見る上で「茶合」という道具がある。
湯冷し、の動作原理(?)はご存知か?
湯冷しが湯をさませるメカニズムは全て「熱力学第二法則に基づく平衡状態への遷移」という意味では共通するが、熱力学第二法則によれば、温度の異なる物質二つで熱のやり取りができる環境にすれば、自発的に温度が一定になる方向に遷移する(ただし、今述べているのは「最終的には」という文言を付与するべきで、現実的には外部からの力学的操作などを本当はすべて考慮する必要があり、いくらか短絡的な発想ではある。力学的仕事が全くないような状況というのは例えば耐圧容器を使用したり、化学反応が起き得ない状況を作るなどすることが求められ、実は案外難しい。)ことが知られている。
到達する温度は二つの物体の各々の遷移する前の温度の間の温度になる。
では、冷ますとしたら、湯よりも冷たいものを用意し、それと熱のやり取りができる(また、できる限り早く平衡に達するような)、環境を用意するのが望ましい。
湯冷しとは、まずその点で、お湯より冷たくなくてはならない。そりゃ、沸かしたてのお湯なら、いいのだが、例えば、とても熱いお湯を注いで熱くなった「湯冷し」に冷水を入れたら、逆に冷水の方が温まる。
いい湯冷しとは、湯冷し自身が温まりにくい、また、熱のやり取りが早く、平衡状態にはすぐに達せられるようなものである。
湯冷し自身が温まりにくい、というのはすなわち、「全体として熱容量が大きい」ことが求められる。湯冷しの大きさは常識というものがあるわけですから、大きさが決まってしまうとなれば、「比熱が大きい」素材でできていることが望まれる。
平衡状態にすぐに達するには、湯冷し内部での熱の移動が素早く、湯冷しの温度がすぐ一定になるもの。つまり、「熱伝導率が高いもの」が良い。
さて、後者の特徴を持つと他にもいいことがある。湯冷しは実際にはお盆等の上に置かれていたり、空気と触れるなどして、熱のやり取りが行われる環境がある。後者の特徴を持つと、そう言った環境との熱のやり取りによっても、冷えやすくなる。
さらに、そういう性質を持った湯冷しであれば、手で持った時に湯の温度を測るのが測りやすい。
測りやすいというのは、熱い場合には「もてないほど熱い」という状態がわかる、というような意味も含む。すなわち、常識的な操作としての、測るという「行為をやりやすい」という意味ではない。
玉露の一煎目は40度程度の低温で出すと良い。温度計などを突っ込むという現代的な手を使ってもいいのだが、お点前でそういうことができるわけでもなし、日常でもそういうことをするわけでもなし、実際に湯冷しを手で「持って」測るのが、ベストなのである。
茶合で茶葉の量を「測る」ということについては次回に。