小学校時代、電池とモーター、豆電球みたいなのと、電流計とかを一応持っていたこともあって、モーターが動いている時にどれくらい電流が流れているのか、に興味を持ったことがありました。

覚えている実験結果を軽く述べると、回ってる時には電流が流れてはいたが、大電流を消費するイメージほどではなかった。一方、回っているのを無理矢理手で止めると一気に電流が増大するのです。

手で止めると電流が増大することは当時から理解できました。
だって、モーターって中身、導線巻いてあるだけですから。要は「ショート状態」なんです。

定常で回っている時、電流が小さいかというのは結構簡単な(難しいか...)話です。
コイルに電気を流すとコイルが磁石として働くのが「電磁石」の原理です。モーターはこの時の、磁石の力が動作するメカニズムになっているわけですが、この電磁石の「反対」の現象も世の中にはあります。
コイルを通る磁場を変化させるとコイル両端に電位差(注1)が生じる「電磁誘導」という現象です。

モーターはコイルが磁場中でくるくる回るような形になっており、モーターを回せば「発電機」としても利用できるように、電磁誘導現象も起こるわけですが、ここで質問。外から電気を加えてモーターを回している時にも電磁誘導は起こっているのでしょうか?

答えはyes。もう少しちゃんというと、モーターが回る理屈というのはある意味では
「外から加えられた電位差(注1)を打ち消せるだけの電磁誘導を起こすために回転する」
という考え方もできます。そう考えると、
「回転数は電圧(注1)に比例する」
というのも理解できるのではないでしょうか。

電流がモーターにおいてどういう働きをしているか、は、細かいメカニズムに関心がある人でも「フレミング左手の法則」がわかればそれを思い出してくれれば済むでしょう。モーター内部は磁場は場所によって違いますが、3極モーターにするなどの工夫によって出力されるトルク等はかなり一定に近いわけでここでは「磁場一定」という近似で考えてしまえば、電流と比例するのは「力」(F=IBLと高校で紹介されますね。)にあたります。もうちょっと専門くさくいえば「モーターに負荷がかかると電流が自然と増える」ようにできているのです。

上記結論を導くだけなら、エネルギーを考えるだけでも十分です。だって、W=VIですから、Vを一定にしておいた時に、与えられた負荷というのはWという形で与えられるので、電流が自ずと増えることになりますよね。この説明なら、中学校の知識で十分になってきます。メカニズムは書いてませんが、物理というもの、なぜか全体としてエネルギーが保存する(注2)のでエネルギー保存を使っても許されるのですね。

ところで、力学を思い起こせば、力は加えると「加速」します。「一定速度の運動」ではありません(注3)。

ということで結論を言うと、
ただモーターが回転しているだけだと電流は(理想的には)消費しないのです。
一方、負荷を与えると、それに応じて電流が決まります。ということは...

モーターは電流と電位差が比例しません。かける負荷の特性によって電流電圧特性が決まるものなのです。
オームの法則、成り立たないんですね。というか、「電圧で電流が決まる」という発送さえ、成り立たないものだったんですね。

モーターといえば日常でも掃除機とか洗濯機にはかなり大型のモーターが入ってます。世の中にある、「照明器具」「電熱線」の類も、オーム抵抗ではないことが普通ですね。

そうやって考えると、小学校の時からオーム抵抗以外のものをガンガン使っているにもかかわらず、オームの法則だの何だの呟くと「理科少年」みたいなイメージになるの、甚だおかしなものではないでしょうか。

法則には「成立する条件」があるのです。オームの法則についてそれを「明示する」のは難しいのでしょうが...

オームの法則は計算練習だったり、その後に学ぶ「線形素子」の特性の理解に役立ったり、色々使えるんですが、理科としてはいかがなもの、ですね。

さて、ここまで学べば「迷列車で行こう電流計編」を楽しむことができるでしょう。

注1:「電圧」、「電位差」といった単語はよく混同される単語で、注意されるべきなのは前者は意味が曖昧で、後者は本来より広く使われやすい点がある。初歩の電磁気学ではこの議論では「電位」というものが通常は「スカラーポテンシャル」と対応がつき、その値の場所による「差」として電位差が定義される、というように学ぶと思うが、電気回路の場合、回路の導線上の点で「電位」を考えて、回路全体について眺めることに問題はないのだが、素子の内部ではもう少し一般の電磁気学的な事象を考えてあげる必要があり、そこでの力学的なメカニズムとして「電位」が本質的に議論できないケースがあります。ただし、回路素子なので、基準となる端から電流が入ってきて、別の端へと電流が出て行くことになるわけで、その時に回路内部での力学的仕事を何らかの形で計算できれば、エネルギー保存則(電源が電流に対してする仕事と、電流が外部にする仕事の総和が一致する意味で)を適用することで、素子両端の「電位差」を「定義」できるようになります。電圧とは、その意味での「電位差」を一定に保つ能力、という表現がおそらく的確でしょう。

注2:エネルギー保存則が一般普遍の法則として成立するのは熱力学的なもので、したがって、エネルギー散逸にはかなり注意しないといけない。力学で「エネルギー保存より」を乱発した場合、失点を大量に喰らいます。ちゃんと意味があって、それを無視してはいけないのです。

注3:摩擦がある場合などに、力の勘定の仕方を間違えやすいケースがある。私の場合は常に、そういったものも含めた「合力」というニュアンスになる。もっとも、さらに正確には合力による仕事を考えるべきである。モーターの場合、中心力が常に働いているからだ。