母が生まれた村はふるさとと言った
古里か故里かそれは詳らかにしない
私はふるさとを離れた村で生まれた
小さい頃母の村を訪れたことがある
白い壁の土蔵があり柳の木があった
厠は外で粗末な板が二枚置いただけ
夜トイレへ行けず三和土に放尿した
夢のような薄ぼんやりとした思い出
ふるさとは遠きにありて思うものと
思わず口ずさみたくなるような記憶
何もかも一緒くたにして意識無意識
帰らぬ幼児の曖昧なままのふるさと
遠く遥かなる旅路の果てに回帰して
帰ってゆくのは母のふるさとなのか