梅雨が明けたはずなのに

今日も天気の機嫌が悪い…

 

晴れの日は鬱陶しく思える太陽の光

 

ここ最近はずっと

雲の向こう側にある

 

気がついたんだ…

 

こんな日はずっとスマホを気にしているって事に

 

ブブ…

 

『すみません…頼まれていた書類の作成終わってるんで…今日もこれで失礼します…』

 

『どうした?』

『いえ…あ…べつに』

 

『そう…お疲れ様』

『お疲れした…』

 

バイトとしては充分に仕事をしているのは

周知の事実

 

だから誰も不満に思う事もなく

帰って行く

 

窓に打ちつける雨は

止みそうにない

 

何かの理由があるにしても

その理由を探すことはなかった

  

 

昼を食べ廊下を歩いている時だった

 

どこからか声が聞こえる

 

その声の元を辿ると

 

非常階段の前で

にのが誰かと話していた

 

『うんうん…』

 

『だいじょぶ…ね?』

 

その声色は

とても柔らかくて優しくて…

 

彼女とでも話しているんだろうか

そう思った

 

『これからかえろうか?』

 

『大丈夫…午前中頑張ったんだ』

 

盗み聞きするつもりはなかったが

結果的に今日も早く帰る事を知ることになる

 

『すぐ行くから鍵開けといて?』

 

『できる?』

 

『すぐ行くからね?』

 

『…謝らなくていいんだよ?ね…?じゅんくん』

 

じゅん?

 

じゃあねと言葉を残してスマホをポケットにしまったタイミングだったと思う

 

『にの?』

 

小さな肩をびくりと上げ

ふり返ったにのは

ひどく驚いた顔をしていた

 

『しょうさ…ん…聞いてた?』

『じゅんがどうした?』

 

いつも飄々としているのに

今は動揺を隠しきれていない

 

『何があった?』

 

それが俺の心をざわつかせる

 

『おいっにの』

『急いでるから…』

 

それしか言わずに

ここから立ち去ろうとしている

 

『おれも行く…いいよな?』

 

 

『わかった…』

 

その返事を聞くまで数秒だったと思う…

 

ゆっくりと降下するエレベーターに

こんなに苛ついたことはない

 

玄関前にいたタクシー に乗りこみ

 

俺たちは

じゅんの事だけを考えてた

 

 

 

静かな車内でぽつりと呟いた

 

お願いがある

なに

 

おれがいいよって言うまで声かけないで

…わかった

 

 

じゅん…