『にの…どう?』

『どうって?』

 

『やくにたててる?』

『あぁ…』

 

『よかった…ぁ』

 

今日はハンバーグを作って待っていてくれた

 

迎えに行くよ

そういつもの様に連絡をすると

 

バイト休みだから何か作って待ってるね

と可愛い絵文字付きで送られてきた

 

うん…

 

今日も美味い

 

視線に気がつき顔を上げると

にこにこな笑顔を隠して目を伏せた

 

耳を赤く染めて…

 

そんなじゅんの仕草は

何と言うか…擽ったい気持ちにさせる

 

今日の話題はにのの事を心配しているみたいだが…

 

 

じゅんがにのに話をしてすぐに

面接の代わりにじゅんの部屋でご飯を食べた

 

「いいよ」

「まじで言ってる?」

 

「なに?冗談なの?」

 

こうしてあっさりと決まったのは

半月も前の事だ

 

「社長…にのみやくんなんですが…」

「どうした?」

 

「彼…学生なんですよね…?」

「そうだけど?」

 

「弟さんのお友達なんですよね?」

って事で会社に連れてきてから

見る限り周りとも打ち解けているみたいだ

 

「あぁ…」

 

何か問題でも起こしたか?

そう怪訝していると

 

「そのまま就職してくれないですか?」

「は?」

 

相変わらず俺には可愛くない態度を取るくせに

部下たちの評価は高い

 

にののおかげと言うと

癪に障るが

 

こうして時間にも余裕ができると

心にも余裕が生まれ

 

…じゅんと過ごす時間も

前と変わらない程持てるようになっていた

 

俺にとっては懐かしいと思える

学生の長い夏休みを迎えていたじゅんに

 

「じゅんもバイトくる?」

 

再度誘っても

 

「にのみたいに要領よくないもん」

と断られてしまった

 

コンビニのバイトの時間を少し多めに入れてるって

そう言ってたな

 

「そっか」

「うん…」

 

このままでいい

 

その一言は

思いの外いろんな意味を含んでいる気がして

それ以上何も言えなかった

 

 

『一緒に昼でもどうだ?』

『いえ…パンあるんで』

 

『あ…そ』

 

ほんと可愛くない

 

でも評価に値する仕事ぶりには

目を見張る

 

ある日

 

分厚い雲が空を覆い

太陽の姿は見えないのに蒸し暑い日だった

 

『あ…雨』

『傘持ってきてないのに』

 

『天気予報は夜遅くって言ってたのに』

 

そう部屋の中が賑やかだった

 

ブブ…と

振動する音がどこからか聞こえ

 

探し当てる前に

立ちあっがた人物が声を上げた

 

『すみません…早退してもいいですか?』

 

普段聞く声色ではなく

焦りを滲ませている

 

『どうした?』

『あ…すみません…お先に失礼します…』

 

慌てた様子で帰っていった


どうしたんだろと

気にはなるが…


『さ…もう少しで終わらせて帰ろ』

『そうですね』