『この映画で良かった?』

『うんっ』

 

『ポップコーンたべるか?』

『ぽっぷこーんったべるっ』

 

『ご飯食べれなくなるから一つでいいよな?』

『うんっいいっ』

 

初めて映画館に来たみたいな

弾む声に


じゅんくん今日すごく楽しみにしてた

とこっそり教えてくれたにのの言葉を思い出した


『ここで待ってて』

『ありがとっ』

 

開演前なこともあって

売店は込み合っていた

  

ね…あの子可愛い

ほんとだ

 

モデル?

えぇ見たことないけど

 

後ろからそんな会話がが聞こえて振り返ると

明らかにじゅんをみて「かわいい」と騒いでいる

 

今日はいつもと感じが違うから聞いたら

「にのがねかみのけせっとしてくれた」

 

よく観察すると

 

無造作にあそばせた毛先と

いつもおろしている前髪もセットされている

 

「似合うじゃん」

「ふへへっそう…かな?」

 

ここに来るまでにしたばかりの会話だ

 

 

そんなじゅんがカウチソファに腰を掛け

足を揺らしている

 

ふははっ

確かに可愛いな

 

でもじゅんは自分に対してそんな会話がされているなんて当たり前だが聞こえていない


飲み物は…と


じゅんは何がいいかな

適当に頼むより聞いた方が良いと


『じゅん』


そんなに大きな声で呼んでないのに

すぐに気がつきぱたぱたと駆け寄ってきた


『なぁに?』

『飲み物なにがいい?』


『あっそっか…んとね…』


えっ

一緒の人もかっこいい


ほんとだ…

兄弟?


そうじゃない?


わぁイケメン遺伝子強すぎ

あはは




無事に買い終わり

そろそろ劇場に入ろうかと歩いていると

 

『なんでそんなに後ろを歩くの?』

『だって…』

 

『だって?』

 

『さっき…しょうくんのことかっこいいって…』

『ふぅん…で?』

 

あの子と友達じゃないよね?年も離れてそうだし

そうだよね…じゃやっぱり兄弟?


流石にあの距離ではじゅんも聞こえてたか…


スーツを身に纏っている俺と

カジュアル服装なじゅん

 

どんな関係なんだろうと

不思議に思う人もいるだろう


『…もっとおとなっぽいかっこう…すれば…』


『じゅん?じゅんはじゅんのままでいいから』

『ほんと?ぼくといっしょやじゃない?』


うるうるとした瞳で見上げる


『ふははっどうして?俺よりももう2度と会う事も無い人の事の方を信じるの?』

 

ぶんぶん


擬音をつけたならきっと

こんな音がするだろう髪の毛を揺らし

 

下を向いて

顔を上げた瞬間

 

『しょうくんのことをしんじるっ』

 

満面の笑みでそう言ってくれた

 

『うん…よろしい』

『ふふっありがと…しょうくん』


後ろをついてきた二人に

軽く目力を強めおずおずと距離を取らせたのは


じゅんには内緒だ