「考えてたんだ」

「なにを?」
 
「いつからこの日に二人で過ごすことになったんだっけなぁって」
「あぁ…なんだ」
 
ふぅと息を吐くと
前髪を掻き上げた
 
「ごめん…」
「なんで謝る?」
 
「ん…なんでだろ?」
 
「また質問を質問で返すし」
「ふふっごめんって」
 
「初めは…あぁそうだ…部屋で飲んでたんだよな」
「そうそう」
 
覚えてくれてることが
すごく嬉しくて
 
「久しぶりに飲もうってなって…」
「思い出した…しょうくんが教えてくれたんだ」
 
 
『そうだ…今日は俺たちの日なんだって』
『俺たちの日?』
『2月5日で2と5だからおれとじゅんなんだって』
『えっ…そうなの?』
 
『ファンの子たちはそう思ってるみたいだよ?』
『ふふっなんか恥ずかしいね』
 
懐かしい…
 
あの頃の匂いや
体温を思い出して
 
胸がぎゅっと苦しくなった
 
「また…来年も一緒に過ごそ」
「…いいの?」
 
「なんで?」
「なんで?」
 
ふはは
ふふっ
 
言葉を覚えたての子供みたいな自分に
流石に可笑しくなって笑った
 
なのに急にしょうくんが真剣な顔をする
 
「俺は一緒に過ごしたいと思ってる」
 
形がどう変わっても
 
「…おれも」
 
この日だけは
貴方を独占したい
 
「約束な?」
「…うん…」
 
約束を交わし
真っすぐな視線から逃げて
窓の外を見ると
 
「ね…ゆき」
「ほんとだ」
 
「早目に迎えに来てもらった方がいいかも」
「あぁ…そうだな」
 
マネージャーに連絡をするのを見て立ち上がり
 
ひんやりとする寝室に向かった
 
シワがつかないようにとクローゼットに預かっていた上着とコートを手に取ると
 
思わず胸に抱きたくなって
 
『おれがシワをつけてどうするよ』
『しわしわにしちゃえ』
 
両極端な思考に
思わず笑ってしまったのは
 
おれだけの秘密
 
しっかりと着込んだしょうくんは
靴を履いて
ドアに手をかけたまま振り返った
 
「今年もありがと」
「うん…また来年」
 
「なんだよ…そんな言い方一年に一度しか会わねえみたいじゃん」
 
ふふっ
これからキャスターするのに
その言葉使い大丈夫?
 
素なしょうくんが可愛かった
 
「そっか…じゃ…また…」
「…連絡する…」

「うん…」
 
「じゃ…いってきます」
 
いってきます…って
 
「い…いってらっしゃい」
 
一人になった部屋
 
窓に近づきカーテンを開けると
空から
次から次へと白い結晶が舞い降りてくる
 
「寒くなりそ…」
 
カーテンを閉めると
現実が目の前に
 
「片しますか…」
 
大きな独り言呟き
テーブルの上を綺麗にした
 
「少し早いけど…飲んでもいいよね」
 
誰も聞いていないのに
缶ビールに口をつけた
 
慣れたはずなのに
微かな残り香が
 
少しだけ…
 
寂しいという気持ちを思い出させる
 
でも
 
…ありがと…
今年も貴方と過ごせた
 
2/5は2と5が寄り添う日
 
2024/2/5