セキュリティーをくぐり

エレベーターに乗り込む

 

大学に通うための一人暮らしには

充分過ぎるだろう

 

もしかして裕福な家庭?

 

 

まだまだ知らない事の方が多そうだ

 

カツカツと靴音だけが響く廊下をいくと

歩みを止めた

 

『ここ…』

『…はいってもいいのか?』

 

『ふふっここまできておいかえしたりしないよ?』

『たしかに…追い返されても困るな』

 

『ただいまぁ』

 

おっつ…

 

親不在だって言ってたよな?

思いの外早く帰って来てるとか?

 

妙に緊張してると

 

『ん?はいって?』

『あ…と…』

 

『だれもいないから』

『へ?だってただいまって…』

 

『くせなんだよ…ね』

 

って寂しそうにつぶやいた

 

『そうなのか』

『ふふっうん』

 

その寂しそうなの顔は一瞬で

すぐにいつもの笑顔を見せる

 

またここでも知らないことがあるのではと

思えて仕方がない

 

『ちらかってるかも…』

『んや…おれの部屋よか全然綺麗だし…てか…散らかってないじゃん』

 

確かにテーブルの上には

何かのレポートだろうか…

 

ノートや本が置かれているが

見える限り断然俺の部屋より整頓されている

 

『広い部屋だな…いいとこ住んでんじゃん』

『ん…そっかな…』

 

学生の一人暮らし

自分は経験したことがないが

 

ワンルームだったりするだろうと想像すると

 

ここはいくつか扉があるし

リビングもそこそこ広い

 

『てきとうにすわってて?あっ…と…たべれないのとかきらいなものとかある?』

『んや…何でも食える』

 

『ふふっじゃあ…ビール?のんでて?』

『わるいな…』

 

『ううん…グラスいる?』

『いや…このままで』

 

わかった…とキッチンへ消えていき

ここから見てもてきぱきと動いているのを

持参した缶ビールに口をつけながら眺めていると


『ぅ?』

『いや…』

 

視線がぶつかり

意味もなく見つめていたことに言い訳もできず

 

でもそれに気にすることなく

今度は冷蔵庫を開けている

 

初めて訪れた部屋なのに

どことなく落ち着く気がする


しばらくすると

 

食欲が擽られる香りがして

吸い寄せられるようにキッチンへ足が動いていた

 

『何作ってる?』

『っ…びっくりしたぁ…』


『いい匂いする…』
 

『うん…あっもうできるよ?』

『はやっもうできるのか?』

 

『うん…かえってからたべようってじゅんびしてたけら…すぐできるよ?』

『えらいなぁ』

 

『へへっ』


さっきまでてきぱきと動いてた姿を見た後に

この屈託のない笑顔は

アンバランスでいて…


もっとじゅんの事を知りたいと思っていた