翔side

 

「そうだ…まだ紹介してなかったね…まつもと じゅん…高校と大学の後輩なんだ」

 

「まつもと…くん」

「あ…はじめまして…あの…じゅんでいいです」

 

「じゃあじゅんくんって呼ぼうかな?」

「はい…」

 

人見知りなじゅんが

早々に心を許してるのが分かる

 

そしておじさんもじゅんの事を

気に入ってくれたのが分かる

 

だって

 

「じゅんくんは苦手な物とか食べれないものとかあるのかな?」

「あっ…えっとぼくなんでも食べれます」

 

「ふははそっか」

「ふふっはい…」

 

俺を無視してじゅんにだけ話しかけているから

 

「な…俺には聞かないの?」

「しょうは…これだろ?」

 

ふふっ言わなくても

出されたのは貝のネタがのった寿司

 

それをじゅんと俺との前に出してくれた

 

「わかってるね」

 

光り良い好物に手を伸ばそうと

持っていたビールのグラスを置いた時だった
 

『ね…しょうくん』

『ん?』

 

つんつんと袖口を引っ張られて

耳元で囁く

 

『手で食べた方がいい?』

『どっちでも大丈夫だよ』

 

だから俺も耳元で教えてあげた

 

『ほんと?』

『あぁ』

 

「じゅんくん…ここはそんなに気を遣う所じゃないから食べやすい方で食べて構わないよ」

「あ…」

 

秘かな会話だと思っていたのはじゅんだけ

ふふっ

聞かれたと知って耳が赤くなってる

 

先に箸を伸ばして貝ネタに少しだけしょうゆをつけて口に放り込んだ

 

「うまっ」

 

それを見てから

じゅんもマネしてやっと箸を伸ばした

 

「うわ…おいしいっ」

「ふふっだろ?」

 

「うんっ」

 

本当に美味しそうに

大きな目を三日月みたいにして

微笑むから嬉しくなった

 

「おいおい握ったの俺だからな?」

「ふははっ分かってるって」

 

「ほんと美味しいです」

「嬉しいねぇじゃあ今度はじゅんくんが好きなネタ握ってあげるよ?なにが好き?」

 

「えっと…じゃあ…」

 

じゅんの大好物の穴子に目を輝かせている

そして口に含むと

 

「っこんなに美味しい穴子食べたの初めて…」

 

今度は大きな目をさらに大きく見開いている

 

ふははっ


ここに来てからいくつもころころと

表情を変えるから

 

「可愛いな」

 

ん?心の声が漏れたかと思ったけど

おじさんの声だった

 

「な?しょう?」

「…あぁ…」

 

それを否定する言葉を俺は知らない

 

もう一つの穴子に手を伸ばしていたじゅんの箸が止まって聞こえていただろう俺たちの会話に

 

「も…しょうくん」

 

頬を赤らめ俺だけに

ささやかな抗議をする

 

「ふははほら食べな?」

「食べるし」

 

拗ねたふりしてもそれさえも可愛いんだって事

じゅんは気づいていない

 

「ん…やっぱり美味しいっ」

「もっと食べる?」

「うんっ」

 

そんな俺たちのやり取りを

目を細めて見ているのを感じた