潤side

 
涙と共に頭の中に流れる景色は
 
翔くんが聞かせくれた日々が
確実にそこにはあって
 
そんなことがあったんだ…なんて
どこか他人事で聞いていたあの夜
 
これを残そうと決めた時の気持ちも
時々涙を拭いながら書いたことも
 
恋をしていたあの時の自分も
 
最後にと…あの日書き終わった後に
 
慌てて出しっぱなしにしていたスーツケースにしまい込んだあの時の自分も
 
今となっては俺の中に溶けて混ざって
一つになった
 
涙が止まり残ったのは
過ごしてきた時間への愛しさと
 
翔くんへの変わらぬ思い
 
心に新たな温かい光を灯し
残った雫を袖で拭って立ち上がった
 
 
「なんだ…ここにいたんだ」
「ん…」
 
カラカラと窓が開く音がして
影が動き
 
俺の大好きなフレグランスの香りが
隣でふわりと香る
 
「風邪ひくぞ」
「…もう少しだけ…月がね…綺麗なんだ」
 
「ほんとだ…綺麗だな…」
「でしょ…」
 
いつもそこにあるのに
気がつかないでやり過ごして
 
不思議と
 
二人で見上げる時は
雲一つない夜空に
 
白く輝いて俺たちを照らしてくれる
 
「ふふ…あの日も同じ月見上げたね」
「そうだったな…」
 
それからしばらく静かに
月を見上げた