潤side

 

「…何から話そうか…」

 

それは俺に問いかけられた訳ではなく

翔くんの心の声だ

 

俺を見つめると静かに微笑み

柔らかな声はそのままに教えてくれた

 

「じゅんと初めて会ったのは病院で…」

 

「『お兄さんだれ?』って言われた時どうしようって思った」

「ごめ…」

 

「謝らなくていいよ…それから…すぐ思い出してくれたし」


一瞬でも忘れていたなんて…


その時の翔くんの哀しみを思うと

胸を締め付けるけど


翔くんは変わらず優しい笑みを浮かべている



こんな状態では実家に帰す訳にも行かず

 

14歳…まだ何も知らない俺に二人の関係を伏せてこの部屋での生活が始まった


二人の物語を

 

俺は翔くんを見上げながら

静かに聞き入った
 


「じゅんの誕生日にこのネックレスをプレゼントしてあの海にドライブに行ったんだ」

 

「そして夜は五人集まって花火を見た」

「あの花火?」

 

「そ…ベランダで二人でみたんだ」

 

夜空に色とりどりの大きな花が咲くのが

目に浮かび

 

確かに…

あの夜に見たことを思い出した

 

「その時『ぎゅってして欲しい』って言うのに逃げようとするから捕まえて…」

 

そう…だ

ぎゅって抱きしめられて…

 

少しずつ集まり始めた小さなピースが

見えなかった景色を作り出していく

 

「…俺達の関係が変わったのは桜が咲く頃…じゅんから言ってれたんだ」

 

しょうくん…すき…です…』

 

あっ…

 

それだけ言って走り出した…

 

翔くんが…後から…抱きしめてくれた…

 

今まで思い出さなかったのが不思議なくらい

色濃く目の前にその景色が広がり始める

 

「いつから俺に恋心を抱いていたのか分からないけど踏み出すきっかけをくれたのはあの純粋な告白からだった…」

 

きっと…

ううん…

 

「…出会った頃から好きだった…よ」

「…そっか…じゃあ随分遠回りしたな…」

 

「「ふふっ」」