翔side

 
話す決意はついたのに
最初の一言が出てこない

だから

「怖くない?」


なんて聞いてみたりして…


「…怖くないって言ったら…嘘だけど…でもだいじょうぶ…」

 

そう言うと身体を寄せ

また胸元で丸くなった

 

「…じゅん?俺の目を見て」


ゆっくりと時間をかけ顔を上げる


「しょうく…」

 

「ちょっと体起こせるか?」

「ん…」


後ろから腕の中に包み込むと

甘えるように首筋に顔を寄せた


寒くないようにと

毛布を引き寄せ2人を包み込むと


暖かくて

柔らかい


甘い香りで満たされた狭い世界に

二人きりになった


「このままでもいい?」

「あぁいいよ…」

 

ふうと息を吐き


じゅんを抱きしめたまま

俺が見てきた事を話し始めた



「ある男から好意を寄せられていた…んだ」

 

「その男に交際を迫られ…潤はそれを拒否続け…受け入れられない気持ちが捻じ曲がって…いつからか潤に暴力を振るう様になった」

 

「…それでも潤は頑なに拒み続け…」


「やつの行動はエスカレートして…写真…盗み撮りした写真で脅されたんだ…二人の関係をばらされたくなかったら…って」


「…限界だったんだ…あの日…あいつの欲望も…潤の心も…」

 

今も耳に蘇る泣き声に

切なさに攫われそうになる


しっかりしろ…

自分に言い聞かせて話を続けた


「気を失う寸前…潤は俺にこう言ったんだ」

 

『…翔くんを愛さなければ良かったのかな…』

『ごめんね…でも愛してるの…』


「…泣きながら目を閉じて…眠り続け…潤は心の深い所で眠ったまま目を覚ました」

 

さっきまで幸せな思い出を

饒舌に語っていたのに


事実を淡々と話す事しか出来なかった


だけど

知っている全てを話せたと思う…

 

「俺が知ってる全てだよ…」


一通り話し終わっても


泣くことも

取り乱すことも無く


静かに


綺麗な瞳で

まっすぐに俺を見つめている