翔side
お互い何も言いだせなくて
無音なまま進んだ先…
車から降りようとする瞬間まで繋がっていた
小指の温もりが離れ
それを追いかけ
もう一度ぎゅっと握りしめると
じゅんも同じように握り返してくれた
真っ暗な駐車場で
ただ手を繋いで…
すっと離したのは
同時だった
部屋に入ると
すぐに風呂の準備をしてくれた後
少し冷めたコーヒーを
いつも使っているカップに淹れてくれた
「ありがと…」
「冷めちゃったね…」
「でも…美味しいよ?」
「うふふっぼくも飲もっ」
言葉少なく会話をしていると
風呂が沸いたと知らせる音がした
「しょうくん…先どうぞ」
「ん?あぁ…じゅんが先でいいよ?」
「ううん…運転疲れたでしょ?」
「…わかった先行ってくる」
「うん…温まって来てね」
穏やかな笑顔に送り出され
温かな湯の中に身を沈めると
「ふぅ~…」
思わず出た溜息
なんとなく…漠然と
じゅんの記憶が戻るのが近いと感じた
きっとそれはじゅんも…
眠っている潤に会えるのは嬉しい…
嬉しいに決まっている
でも
目が覚めて
どんな反応を見せるのか…
それが少し怖い気もする
その時俺は…
何が出来るだろうか
複雑な気持ちを
ゆっくりと湯に溶かして戻ると
リビングにはじゅんの姿はなく
ベランダに出るカーテンが
揺れていた