翔side

 

そんな事考えていたんだ…
 
思い出せないことの方が
辛いのか…
 
痛みを伴う事だとしても
それを選ぶと言うなら
 
俺は…そんなじゅんを支えるだけ
 
「しょうくん…ありがと」
「え?」
 
「しょうくんといっぱいお話して…いっぱいぎゅってしてくれて…ぼく…強くなれたよ」
「…じゅん…」

 

まさか自分から記憶の扉を開きたいなんて言うとは思ってもいなかったから
 
いいよと
直ぐに返事が出来ない

だけどじゅんはもう
 
この先の未来を
信じて歩こうとしている

 

出来る事なら
嫌な記憶は思い出して欲しくない
 
その事を思い出さないと
記憶はこのままだろう…
 
愛しさに溢れていた日々だけを思い出すのは
難しいのか…
 
じゅんの決意と思いを理解して受け止めて
自分の中で消化していると
 
「…このノートまだページが残っているの…」
 
と柔らかな声で呟くと
ノートに視線を落とした
 
『あの海が見たい…もう一度』
 
昨日のじゅんの言葉を思い出した
 
そういう意味だったのか…
 
「うみ…見に行こうな?」
「…うんっ」
 
そう頷くじゅんの瞳の中に
悲しみはどこにもない
 
ただ…真っすぐ俺を見つめ
微笑んでいる
 
泣きたくなったのは俺の方
 
いつの間にか
じゅんは強くなっていた