翔side

 

「わぁ…海だぁ」

 

そう声を上げ俺越しに外を眺めた

 

『海が見たい』

『海?』

 

『うんっ夏に連れて行ってくれたあの海…』

『…車から降りれないかもしれないぞ?』

 

空は少し曇っていて

車内もエアコンをつけないと寒い

 

こう見えても体が強くないじゅんだから

風邪ひかせたくないし…

 

でも…


じゅんが見たい景色を一緒に見たかったのは

俺の方で

 

『…だめ?』

 

上目使いでお願いされたら

ダメ…なんて言いうわけない

 

そう…同じ景色を見たかったんだ

 

限られた時間の中で思い出を

今のじゅんにもいっぱい作ってあげたかった


俺も今のじゅんとの思い出が欲しかった


いつか目覚める時までに…


覚えていないかもしれない

それでもいい…


今を大切に過ごしたら

その時が来てもきっと大丈夫…


いや…絶対…俺たちに力をくれるはず

 

「しょうくん…海だよ?海」

「そうだな…海だな」

 

ハンドルを握る左の腕に添えられた

体温が服越しにも暖かくて

 

「冬の海も綺麗だね…」

 

笑みを浮かべそう呟くじゅんが綺麗で


どんな理由より…

単純にその笑顔が見たかった



走りながらちらりと外を見ると

 

少ない陽射しでも

水面がきらきらと光をまとい

 

輝いている