翔side

 

パタンとドアが閉まるのを二人で見届けて

缶ビールに口を付け

 

口を開いたのは雅紀だった

 

「でも驚いたな…」

「う?なに?」

 

「チュウして…寝る時も一緒でって…最後までしてないのが」

「あぁ…うん…」

 

「あんなに可愛い潤ちゃん目の前にしてよく我慢できるね」

「ふふ…まぁな…」

 

「翔ちゃん…さ…聞いてもいい?」

「ん…なに?ここまで話したんだ…雅紀たちに隠す事なんてもう何にもないし…」

 

「ん…あのさ…もしかしてじゅんちゃんってあいつに襲われ…」

「それはないっ絶対にないっ」

 

あの日の光景を嫌でも思い出し

 

温かい体温を奪われるように

すっと血の気が引いて

 

そして冷静さを失しない粗がる声に驚いたのは

自分自身だった

 

「あっ…いやごめん…」

「ううん…俺こそごめん」

 

「…じゅんはあいつに抱かれてはないんだ…」

「うん…」

 

「ごめん…大きな声出して…」

 

そう…

 

抱かれても…キスさえもされていない

 

『自分のものにしてから味わうつもりだった』

『何度脅しても首を縦に振らなくて…苛立って気がついたら殴ってて…』

 

『それでも変わらない答えに…あの日我慢の限界だった』

 

あいつがそう言っていたと佐藤教えてくれたのは夏の頃だった

 

あの時気がつくのがもう少し遅かったら…

 

危なかった…

 

目に見える傷は時間が癒し

今は目に見えない傷を

 

心の深い所で

自身を癒すように眠っているんだ

 

「ほんとさ…じゅんって…純粋でさ…」

「うんうん」

 

「唇合わせるのも大変なんだぞ?真っ赤になって震えてさ」

「うふふ…そうなんだ」

 

「じゅん…『愛してる』…その一言が中々言えなくてな…」

「気持ちはそうなのにね…」