お月さまの | 天使の囁き(童話で心を癒して)

お月さまの

 辺りが暗闇に包まれた頃、お月様がそーっと顔を覗かせました。
 たくさんの人が川原に集まっています。
 小さな子供を連れた親子。女の子ばかりのグループ。
 恋人同士かも知れない男女。
 みんなワクワクしながら思い思いの場所に座っています。
 ドーンと大きな音がした途端、夜空に綺麗な花が咲きました。
 綺麗、ウワーと言う声があちこちで沸き上がっています。
 お月様も目を細めながら夜空に咲く花を見つめています。
 花火を見ていて、気になるカップルが目に入りました。
 木の陰に寄りかかっている浴衣姿の女性。
 少し離れた所には男性が女性を守るように立っています。
 女性は静に花火を見ています。
 一度も男性の方を見ようともしません。
 喧嘩をしているようにも、何かを期待しているようにも見えます。
 夜空の花火が静に消えていきます。
 辺りは静寂と暗闇が広がりました。
 男性がそーっと女性の側に歩み寄りました。
 お月様は何かが起こる予感がして、より明るく輝きました。
「陽子、結婚してくれ」
「もう、お兄ちゃん、冗談は止めてよね」
「ははっ、お前がうっとりした顔をしていたからなあ、帰ろうか」
 二人は、はしゃぎながら帰っていきます。
 お月様は二人の心臓が早鐘のように鳴っているのを知っていました。
「もう卒業かな」
 二人のつぶやきがお月様には聞こえたような気がしました。