悲しみのピエロ | 天使の囁き(童話で心を癒して)

悲しみのピエロ

 まりちゃんはひとりぽっちで暗い部屋にいます。
 お父さんもお母さんもいません。
 心の中も真っ暗でした。
「迎えに来たよ」
「・・・・・・・・・・」
「ほら、僕はここだよ」
「・・・・・・・・」
「いつも僕を見てるよね」
「・・・・・・・」
「ほらほら、真っ暗だから見えないんだ」
 部屋が明るくなりました。
 まりちゃんの前にピエロのパジャマ入れがいます。
 いつもの無表情の顔で踊っています。
「まりちゃん、鏡を見てごらん」
 まりちゃんは言われて、鏡を見ました。
 ピエロと同じ顔をしています。
 笑っているのか泣いているのか分からない顔です。
まりちゃんは無理矢理笑おうとしました。
だけど、表情は変わりません。
余計に泣いたように見えます。
「どうしたの、私の顔はどこにいったの」
「あわてないで」
「あわてるわよ、私の顔を返して」
「駄目だよ、せっかく仲間が増えたのに返せないよ」
「そんな、いじわるしないでよ」
「僕がいじわるしてるって」
「そうよ、いじわるしてないんだったら、私の顔を返してよ」
「まりちゃんの顔をピエロにしたのは僕じゃないよ」
「じゃあ、誰がしたのよ」
「そんな事より、僕と遊ぼうよ」
「なんで、あんたと遊ばないとだめなの」
「まりちゃんも僕と同じだろ」
「同じって」
「ピエロってね、なんでこんな顔してるのか知ってる」
「知らない、みんなを笑わすのがお仕事でしょう」
「ピエロってね、悲しみを心に持っているから、こんな顔になったんだ」
「どうして悲しいの」
「それはまりちゃんと同じさ」
 まりちゃんは自分の心の中を見られたと思いました。
誰にも言えず、心の中にしまい込んだつもりでした。
まりちゃんの心の中にお父さんもお母さんも友達もいません。
真っ暗で何も見えなくなっています。
「僕と遊ぶ、それとも話してみる」
「何を話すの」
「まりちゃんの悲しみを聞いてあげる」
「話したら、ピエロの顔は消えるの」
「それはどうか分からないよ」
「じゃあ、話さない」
 ピエロは黙って踊り出しました。
 逆立ちしたり、飛び上がったりします。
 まりちゃんのパジャマが上にいったり、下にいったりして、お腹がふくらんだり縮んだりします。
まりちゃんは楽しげなピエロを見て、心がちょっとだけ温かくなりました。
そして、いつのまにか自分も踊り出していました。
「あらら、まりちゃんの顔元に戻っているよ」
「なんで、どうして」
「まりちゃん、悲しみはどうしたの」
「あれっ、私何が悲しかったのかしら」
「せっかく、仲間が増えるって思ったのに」
「そういえば迎えに来たって言ってたよね」
「ピエロって悲しみを心の中に閉じこめているんだ、だから、こんな顔でみんなに笑いを振りまいて心を取り戻してもらうんだ」
「じゃあ、私が心を取り戻さなかったら」
「僕と一緒にピエロの国に行くんだ」
 ピエロから聞いたピエロの国は、悲しみの国です。
悲しすぎて、誰も心を閉じこめています。
泣くことも笑うこともなく表情のない顔で踊り続けています。
悲しみを忘れるために踊り続ける事しか出来ないのです。
「良かったね、明日みんなに謝るんだよ」
「まり、起きなさい」
「お母さん、昨日はごめんなさい」
「いいのよ、分かれば、お友達にもちゃんと謝るのよ」
 まりちゃんの悲しみは、友達からお金を借りた事です。
 そして、二人からその事で怒られました。
 友達に返すのが遅れ、二人に知られたからです。
 それが元で友達とも喧嘩になりました。
そして、みんなから嫌な子だと思われたのです。
 ピエロのパジャマ袋はいつもの顔でまりちゃんを見下ろしています。
 暗い部屋で独りぽっちでいたのは夢のようです。
「ありがとうピエロさん」
「どうしたの」
「ううん、なんでもないの」
 まりちゃんの顔は晴れ晴れしていました。
 友達に素直に謝る勇気も持てたようです。
 そして、悲しみは心に閉じこめないでおこうと思いました。
 ピエロの国で踊り続けるなんて淋しいものね。