「先生、あの。弁護士会の懇親会の案内状が・・・」
ミノが封書を差し出すと、チャンミンはそれをちらりと見たきり首を横に振った。
「欠席でお願いします」
それを見て、やはり先日の会合は楽しいものではなかったのか、とミノは肩を落とした。
「・・・・はい」
自分が余計なことを勧めてしまったせいだとミノが後悔していると、チャンミンはミノの名を呼び笑顔を向けた。
「君のせいじゃないんですから、そんな顔しないでください」
「あ、でも」
「勉強になりましたから」
「そうなんですか?」
少し報われた思いでミノがほっと胸を撫で下ろしていると、チャンミンは真面目くさった顔でひとり頷いていた。
「ええ。君子危うきに近寄らずです」
「・・・・はい?」
ミノが訳が分からないという顔でチャンミンを見ていると。
「それよりミノ君。不動産屋の広告というのは、不当表示スレスレなのを知っていましたか?」
突然そう言われて、ミノは首を横に振った。
「いえ。それは新しい案件ですか?」
「いえね。造成工事完備と広告が打ってあるのに実際は工事中だったり、日当たり良好と銘打っておきながら、
後で隣に日照権訴訟でも起こされそうなビルが建ったり、駅から5分というのは歩いてみるとこれが実に10分もかかったりするんですよね」
「・・・・はあ」
「あれはこちらの洞察力や忍耐を試そうとする罠なのかもしれません」
ミノにはチャンミンがなんの話をして、何に憤慨しているのかさっぱり分からなかった。
なにか新しい調査に着手したのかもしれないが、それにしてもずいぶんと飛躍した論理だ。
「あの・・・・・先生」
「あとは30年ローンなんですよね・・・」
「・・・・・・・・」
物思いに耽りながらため息をつくチャンミンは、おそらくミノの助言など求めていないのであろう。
そう気づいたミノは、"では欠席の返事を出しておきますね"とだけ伝え、上の空のチャンミンを残して自分の仕事に戻っていった。
end