小説 行政書士・3 | アトラス塩浜のブログ

小説 行政書士・3

小説 行政書士・1
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小説 行政書士・2
http://ameblo.jp/tensaij/entry-11429722537.html


森高里美はアメリカで弁護士の資格を取得したが、この資格では日本では活動できない。日本の弁護士資格の無いままテレビで法律相談を行っている森高里美に対し、弁護士達からのいやがらせが絶えないという。日本の法曹界の閉鎖性に嫌気がさしていたところに白沢の文を見て「スカッとしちゃった」そうだ。


「白沢君みたいな若い人がどんどん出て、法律の世界の閉鎖的な壁に風穴をあけなくっちゃ。私みたいなオバサンにばかりまかせないで。ウッフッフ。」
森高里美はアメリカの弁護士資格の他、日本の行政書士と宅建の資格を持っていた。


白沢修一は森高里美の事務所と共同という形で開業登録の申請をし、登録が認められるまでは森高里美の「行政書士補助者」として仕事をすることとなった。
この補助者にしても届け出手数料3000円、補助者証とバッジ3000円、研修費4500円とられる。中々うまくできている。
     ★   ★
絶縁状態だった白沢修一の父、喬が修一に会いたがっているという。
(別にこっちは会いたくないが、バカにされたままじゃ不満だ。出版社から出た僕の本でも見せてやろう。)


帰省した白沢修一は、父が入院していることを知らされた。しかも、その病院は、院長が共産党で、市長選挙にも出た奴の所だ。
これはびっくりだ。白沢修一の父、白沢喬の共産党嫌いなことといったらハンパじゃない。
白沢修一も共産党を好きではないが、父ほど異様に嫌ってもいない。
日本はもう少し防衛費を抑えて福祉に回すべきだとかつて父に言ったら、父・白沢喬は「おまえ、いつから共産党になった!!」
と怒鳴って白沢修一をぶん殴ったのだ。


白沢修一は皮肉を込めて短歌を詠んだ。

右翼から 見れば普通の 国民の
平和の願いも 極左の言動


そんな白沢喬が共産党系の病院に入るとはどういうことだ。
母を問いつめる。
気がつくと母親が泣いていた。


白沢喬は肺ガンで、もう助かる見込みはないという。医者の判断よりも、あの頑固で体制派で共産党嫌いの男が、共産党系の病院に平気で入ってしまうあたりが、もう永くないことを物語っている気がした。
白沢は、実家を追い出された日、心の中で(死ね、死ね)と何度も呪っていたことを思い出した。


本当にこうなるとは思っていなかった。


父親を見てゾッとした。
親不孝と言われようがどうしようが、ゾッとするものはゾッとする。手も足もガリガリにやせて折れそうだ。顔がやせこけて小さくなり、髪はほとんどなくなり、目がギョロッと異様に大きく見える。


本人は、これでもまだガンと知らず、そのうち治ると思っているらしい。
「修一、修一か。」
白沢喬が苦しげに声をふりしぼり、顔を必死に上げようとした。
「そのままでいいよ。今はゆっくり休んで。」
白沢修一が急いで顔を白沢喬から見える位置に持っていった。

「修一、本を出版したそうだな。おめでとう。よくやった。」

父親にほめられたのは初めてのような気がする。なぜか、あまり嬉しくなかった。
(お父さん、人間が丸くなったじゃないか。頑固者のくせに。)
もう灰皿を投げる力はないだろう。


「お父さん、早く元気になってくれないと、僕が書いたこの本が読めないじゃないか。自慢しようと思って持ってきたのに。」すると、父・白沢喬がかすれるような声で弱々しく言った。
「なあに、そのうち読めるようになるさ。」と白沢修一はそれを聞き、無理に笑いを浮かべてみせた。
         ――つづく――