プロレスバカ1代・2
大学時代、昼休みに中庭でプロレスをやることにして対戦相手を募集したところ、北城裕二選手が問い合わせてきた。
試しに軽く戦ってみることにしたら、顔面にすごい一撃を食らった。
痛いとかそういう感覚ではない。
脳味噌の左半分が、奥のほうから熱くなった。
「待った」と言いたかったが、口がうまく動かない。
目の前がよく見えない。
なんだ、この感覚は?
オレはここで死ぬのか?
「こんなバカなことで死にたくない」と思った。
ここで北城裕二選手が出したのは、ドロップキックという技である。
空手の飛び蹴りに似ているが、空手の飛び蹴りが片足で蹴るのに対し、プロレスのドロップキックは両足で蹴る。
それだけに着地が難しい。ジャンプ力もさることながら、着地が心配であまり高く飛ばないのが普通である。
私などは助走をつけてやっと相手の胸に届くのだが、北城裕二選手は助走もつけず、あまり予備動作もなく、こともなげに顔面まで届くのがすごい。普 通はここまで飛ぶためには相当ひざを深く曲げてからジャンプするものである。せいぜい胸あたりを蹴ってくるのだと思ってえらい目に遭ってしまった。
この技の難しい点はまだある。
足を伸ばすことによってようやく相手に当たるのではあまり効かない。実は超一流レスラー、アントニオ猪木選手がこの技に関しては下手で、足を伸ばすことによって相手に当たる形である。
北城裕二選手のドロップキックは、相手に当たった時点ではまだひざが曲がっている。相手に当たりながら足がグーンと伸びて相手を蹴りこんでいくのである。
(梶原一騎モード)
読者諸君!!私、アトラス塩浜はあえて断言する。
この北城裕二選手のドロップキックをまともに食らって立っていられる人間は獨協大学には1人もいない!!
さて、この恐ろしい技にどう対処するか。
試行錯誤の結果、当たった瞬間、背伸びのような要領で体を少し浮かせることにした。そうすると自分の体が吹っ飛ぶが、ダメージは小さい。技の威力を減らしつつ、大きく吹っ飛ぶことで観客には受ける。一石二鳥である。
よくプロレスではオーバーな動作があり、インチキくさいと言われるが、下手に踏ん張ったりこらえたりするより、大きく吹っ飛んだ方がダメージが少なくなるという面もあるのだ。これもプロレス式の受け身のテクニックと言えよう。
昨年、浅草花屋敷でアイドルの鈴木まりえさんを応援していたら、走り回っている幼児と衝突してしまった。とっさにプロレスで鍛えた受けのテクニッ クで瞬時に体を浮かせたところ、相手が幼児なのに私のほうが大きく宙に飛び、幼児を怪我させずに済んだ。昔より衰えたとは言え、まだまだこのあたりのうま さは体に染み込んでいるようだ。
北城裕二選手と戦っている途中、突如2人の人間が乱入。
2人組んでの合体技を次々出して我々をダウンさせ、大声で名乗りをあげた。
「おれたちは獨協ウォリアーズだ!」
彼ら2人は北城選手と同じ高校の出身。1年上。
上州キリ選手と源龍天一郎選手だ。
私塩浜の実力を知るため、先に後輩の北城選手をけしかけ、両者が弱ったところでおいしい所を持っていく。日露戦争時のイギリスみたいだ。あるいはガッツ星人みたいだ。
私は大学3年生の時まで自分をエースにしていたが、どうも私が勝つと、「塩浜が強い」というよりも「相手がもっと弱い」というように見えるということに気づいていた。
私が攻撃していると何をやってもかっこ悪い。
プロレスとは外れるが、私が雪国新潟出身と知ると「じゃあスキーはうまいんでしょう」と聞かれる。「うまい」の定義による。
整備されたスキー場をかっこよく下りてくる能力ならば、皆さんが数時間練習した後、私より上になるだろう。
が、雪質の悪い所でも、木の切り株が出ているような所でも怪我をせずに無難に滑り降りてくる能力ならば、私はうまい。
私のプロレスのうまさもこれに似たような面がある。
柔道や空手の選手が挑戦してきた時には私ができるだけ相手をした。どんなタイプの相手にもそこそこ対処できるし、結局私が1番怪我しなかった。
また、毎年数回やむを得ずやっている路上での喧嘩でも今のところ連戦連勝である。
ただ、とにかく私はかっこよくない。
私がやられているとものすごく盛り上がる。
幸い、4年生のときに上州・源龍・北城という、かっこいい大技を連発できる選手が来た。これを機に私はやられ役専門みたいになった。ビデオで当時の試合を見ても、やられ役が似合いすぎる。
もう一つ、実況解説も得意となった。
4の字固めが出ると、「おおっと、日本人が忌み嫌う4の文字が、今リングに描かれたー」
ネックブリーカーが出ると「首を絞めて、ひねって更に叩きつける。地獄の3重苦、現代のヘレンケラー」、ギロチンドロップが出ると「ギロチンドロップ、ルイ16世の呪いだー」
と、ただ技の名前を叫ぶのではなく、それぞれの技にちょっとした言葉をくっつけていった。
こうして大人気になった「中庭プロレス」。
ある日、ボクシング部で極真空手初段の男が挑戦状を叩きつけてきた。
(困ったな、どうしよう)と思った。
別に相手の方が強そうだとか、負けたらどうしようということではない。
(つづく)
オタクのコーナー
あるコミュニティでの私のコメント。テレビではスタッフ指示の演出が多いという例。
私もあるクイズ番組で、スタッフの指示により、小倉優子さんが答える時だけ「かわいい」「ゆうこりん、ガンバー」などと叫ぶ役をやりました。
私は悪役でも何でもやりますが、多分ゲストたちには細かいことまで知らされておらず、ゆうこりんや司会者に「何、この空気読めない男は」と思われたであろうことが心残りです。
試しに軽く戦ってみることにしたら、顔面にすごい一撃を食らった。
痛いとかそういう感覚ではない。
脳味噌の左半分が、奥のほうから熱くなった。
「待った」と言いたかったが、口がうまく動かない。
目の前がよく見えない。
なんだ、この感覚は?
オレはここで死ぬのか?
「こんなバカなことで死にたくない」と思った。
ここで北城裕二選手が出したのは、ドロップキックという技である。
空手の飛び蹴りに似ているが、空手の飛び蹴りが片足で蹴るのに対し、プロレスのドロップキックは両足で蹴る。
それだけに着地が難しい。ジャンプ力もさることながら、着地が心配であまり高く飛ばないのが普通である。
私などは助走をつけてやっと相手の胸に届くのだが、北城裕二選手は助走もつけず、あまり予備動作もなく、こともなげに顔面まで届くのがすごい。普 通はここまで飛ぶためには相当ひざを深く曲げてからジャンプするものである。せいぜい胸あたりを蹴ってくるのだと思ってえらい目に遭ってしまった。
この技の難しい点はまだある。
足を伸ばすことによってようやく相手に当たるのではあまり効かない。実は超一流レスラー、アントニオ猪木選手がこの技に関しては下手で、足を伸ばすことによって相手に当たる形である。
北城裕二選手のドロップキックは、相手に当たった時点ではまだひざが曲がっている。相手に当たりながら足がグーンと伸びて相手を蹴りこんでいくのである。
(梶原一騎モード)
読者諸君!!私、アトラス塩浜はあえて断言する。
この北城裕二選手のドロップキックをまともに食らって立っていられる人間は獨協大学には1人もいない!!
さて、この恐ろしい技にどう対処するか。
試行錯誤の結果、当たった瞬間、背伸びのような要領で体を少し浮かせることにした。そうすると自分の体が吹っ飛ぶが、ダメージは小さい。技の威力を減らしつつ、大きく吹っ飛ぶことで観客には受ける。一石二鳥である。
よくプロレスではオーバーな動作があり、インチキくさいと言われるが、下手に踏ん張ったりこらえたりするより、大きく吹っ飛んだ方がダメージが少なくなるという面もあるのだ。これもプロレス式の受け身のテクニックと言えよう。
昨年、浅草花屋敷でアイドルの鈴木まりえさんを応援していたら、走り回っている幼児と衝突してしまった。とっさにプロレスで鍛えた受けのテクニッ クで瞬時に体を浮かせたところ、相手が幼児なのに私のほうが大きく宙に飛び、幼児を怪我させずに済んだ。昔より衰えたとは言え、まだまだこのあたりのうま さは体に染み込んでいるようだ。
北城裕二選手と戦っている途中、突如2人の人間が乱入。
2人組んでの合体技を次々出して我々をダウンさせ、大声で名乗りをあげた。
「おれたちは獨協ウォリアーズだ!」
彼ら2人は北城選手と同じ高校の出身。1年上。
上州キリ選手と源龍天一郎選手だ。
私塩浜の実力を知るため、先に後輩の北城選手をけしかけ、両者が弱ったところでおいしい所を持っていく。日露戦争時のイギリスみたいだ。あるいはガッツ星人みたいだ。
私は大学3年生の時まで自分をエースにしていたが、どうも私が勝つと、「塩浜が強い」というよりも「相手がもっと弱い」というように見えるということに気づいていた。
私が攻撃していると何をやってもかっこ悪い。
プロレスとは外れるが、私が雪国新潟出身と知ると「じゃあスキーはうまいんでしょう」と聞かれる。「うまい」の定義による。
整備されたスキー場をかっこよく下りてくる能力ならば、皆さんが数時間練習した後、私より上になるだろう。
が、雪質の悪い所でも、木の切り株が出ているような所でも怪我をせずに無難に滑り降りてくる能力ならば、私はうまい。
私のプロレスのうまさもこれに似たような面がある。
柔道や空手の選手が挑戦してきた時には私ができるだけ相手をした。どんなタイプの相手にもそこそこ対処できるし、結局私が1番怪我しなかった。
また、毎年数回やむを得ずやっている路上での喧嘩でも今のところ連戦連勝である。
ただ、とにかく私はかっこよくない。
私がやられているとものすごく盛り上がる。
幸い、4年生のときに上州・源龍・北城という、かっこいい大技を連発できる選手が来た。これを機に私はやられ役専門みたいになった。ビデオで当時の試合を見ても、やられ役が似合いすぎる。
もう一つ、実況解説も得意となった。
4の字固めが出ると、「おおっと、日本人が忌み嫌う4の文字が、今リングに描かれたー」
ネックブリーカーが出ると「首を絞めて、ひねって更に叩きつける。地獄の3重苦、現代のヘレンケラー」、ギロチンドロップが出ると「ギロチンドロップ、ルイ16世の呪いだー」
と、ただ技の名前を叫ぶのではなく、それぞれの技にちょっとした言葉をくっつけていった。
こうして大人気になった「中庭プロレス」。
ある日、ボクシング部で極真空手初段の男が挑戦状を叩きつけてきた。
(困ったな、どうしよう)と思った。
別に相手の方が強そうだとか、負けたらどうしようということではない。
(つづく)
オタクのコーナー
あるコミュニティでの私のコメント。テレビではスタッフ指示の演出が多いという例。
私もあるクイズ番組で、スタッフの指示により、小倉優子さんが答える時だけ「かわいい」「ゆうこりん、ガンバー」などと叫ぶ役をやりました。
私は悪役でも何でもやりますが、多分ゲストたちには細かいことまで知らされておらず、ゆうこりんや司会者に「何、この空気読めない男は」と思われたであろうことが心残りです。