氏神神社の宮司さんが
灰まみれになっていました
左義長（さぎちょう）
どんと焼きは
終わって間もないけれど
それから、また
あっという間に
古いお札が
溜まったんですね。
その古札を
焼いていたからです。
「火は温ったかいけど
灰が舞って大変ですね」
そう、話しましたら
灰にまみれるのは
いつものこと
でも
まだ若い頃
持ち込まれるお札は
すごく多くて
一日中かけて
一人でそれを焼いていたら
何だか目が
見えにくくなったんだそうです。
病院に行ったら
何時間も火を見ていたから
目の水分が
なくなりかけていて
あと数時間
それを続けていたら
失明したかもしれなかったと
言われたのだそう。
「そんなことになるなんて
知らんかった」・・と
苦笑いされました。
「でも、火は見とかんと
火の粉が飛んで
山積みの古札に燃え移って
火事になりかけたこともある」
その時は
身体ごと火に飛び込んで
転げまわって
火を消したのだとか。
（水をかけると古札が濡れるから）
この宮司さんの
体験談を聞くと
神様は
いつも寸でのところで
お助けを下さっていると
思わずにはいられません。
高いところから
石段に頭から落ちたのに
ケガがなかったとか
何十年も不整脈で
ニトロを手放せないほど
検査数値が悪くて
医者が首を傾げるのに
元気だとか
若いころ
お祓いを失敗して
命がなくなっても
おかしくないような目に遭ったけど
龍神社の龍神が
身体に入ってくれて
助かったとか
（分かったそうです）
氏子の年寄りを
大勢連れて
初めてご祭神が
祀られる山に登ったら
思いのほか時間がかかり
真っ暗な山道で
遭難しかかったけれど
神様・・と祈ったら
遠くの山小屋に
灯りがともり
その灯りのお蔭で
助かったとか
その一つひとつが
面白いけれど
ご苦労されたんですね・・と
言わずにはおれないこと
ばかりです。
その宮司さんが
この時は
他の神社を崇敬している
ある知り合いの顔が
変わってしまったと
眉を寄せたのです。
昔から知っている
とてもいい青年
いい人だった知り合いは
ある時から
名誉や名声を
求めるようになって
ある神社を崇敬しだしたら
それらは手に入ったけれど
顔が鬼のように
なったそうなんです。
どうして
あんな顔になったんだろう・・と
とても心配そうです。
そんなに
「うん・・・」
でも
名誉とかが
手に入れられたなら
そこの神様の
お助けのような気がするけど
神様と
鬼のような顔になった
その人の欲とは
別なんじゃないですか
そう尋ねますと
「さあ。。。
分からん・・
別であって欲しいけど。。。」
そう言われ
本当に曇った顔を見て
私も、それ以上
話題を続けるのは
やめました。
それにしても
神職さんになって53年
若い頃から何度も
九死に一生を得るような
経験をされてきた
宮司さんに
今までで
何が一番
大変でしたか？と
尋ねると
一番というのはないけど
富士山の頂上でのご奉仕
あれは大変だった・・
２週間お風呂に
入れなかったから・・と
苦笑いされました
そして
ご神祭が祀られる山には
もう二度と
氏子さん達とは登るまいと
決心したのだとか。
「氏子は年寄りばっかり。
時間かかってかなわん」
そういう自分も
いつの間にか
年寄りになってしまったけど・・と
顔に付いた煤（すす）を
拭いながら
「でも
あの時タイミングよく
点いた電灯。。
あれも神様の
お助けやったんやろうなぁ・・」と
遠い目をした
宮司さんは
いつもの
穏やかな顔に
戻られていたのでした。
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