桜色の風のなかで、俺は彼女を待っていた。
桜の花びらをさらう風の音に交じって、遠くから聞こえてくるのは卒業生たちの声。
泣いたり、笑ったり、叫んでいたり。
様々な声が聞こえてくる。
どうして俺がそのほうにいないのか?
その答えはひとつしかない。いや、今日でなければたくさんあるんだろうけど、今日、今日だからひとつしかありえなくて。
そう、待ち人。
なんで待っているかって?それこそ愚問。そんなの、告白しかない。
だけど……
「克実(カツミ)!」
ああ、やっときた。髪が乱れているのを見ると、走ってきたんだろうな。それに目も赤い。たくさん泣いたのだろう。
「わざわざ走ってきたのか?沙菜恵(サナエ)」
「だって、あんまり待たせたら悪いかなって」
「別にいいのに。卒業式なんだし、友達とかと色々話したりしてても」
「そうだけど……なんか待たせてるのって落ち着かない」
なんか気になってしょうがないし、やっぱり待たせるのは悪い気する、と口を尖らせていう沙菜恵。
沙菜恵のこういうところは好きだ。
そして、さっきに戻れば告白、しかないこの状況。だが、違う。何故なら
「それに、今日は克実と最後の制服デートするっていったじゃん」
そう、すでに俺たちは『恋人』であるからだ。
「確かにいったな、沙菜恵が」
「克実でしょ!」
「はいはい、んじゃ行きますか」
むっとしたようにいった沙菜恵に笑って歩き出した。
桜の花と、遠くの声とに背を向けて。