1.奇妙なゴライアス
こちらがゴライアスオオツノハナムグリことGoliathus goliathus。この個体は上翅が白くなったquadrimaculatusと呼ばれるフォームの個体。
いつものようにパッキングで仕入れた数頭のゴライアスを展足していたときのことだった。
そのうちの一頭の右前脚フセツ、右中脚フセツが極端に短く、爪も他の脚に比べて非常に小さいことに気が付いた。
脚の長い昆虫や大型の昆虫を展足している際にこの様な奇形や形成不全の個体にはよく出会う。
今回も同じく左右非対称な個体として処理したのであった。
だが販売の告知のために写真撮影をしていたときにある異変に気が付いたのである。
フセツの短い方の前脚の付け根、頸節内側をご覧いただきたい。
棘状の突起が二つあるのがお分かりだろうか?
更に拡大してみよう。
こちらの突起である。
これの何が異常かというと、本来ゴライアスのオスの前脚頸節内側にはこの様な突起は存在しないのである。
もっと言うと、一番外側に見える突起は頸節の一部であり、こちらの突起は通常のオスにも確認できるのだが、問題はその隣の内側の棘状の突起である。
裏側から見ると分かりやすいのだが、この棘状突起は節が存在し、可動するのである。
分かりやすくするために通常のオスの個体の同じ部位をご覧いただきたい。
同じ箇所に棘状の突起は存在しない。
上から見るとこの様に前脚の頸節内側はスッキリとしている。
だがこの可動する棘状突起があるというだけで何をそこまで騒いでいるのかと疑問に思われてしまうだろう。
ここからはその理由を説明していく。
2.メスの特徴
お分かりいただけるだろうか。
前脚頸節内側に鋭く発達した可動式の棘状突起が存在しているのである。
ここまで説明したら私が騒いでいる理由はもう理解できたであろう。
3.遭遇?奇跡のギナンドロモルフ
こちらの写真はGOKUSAISHIKI様にご提供いただいたギナンドロモルフのニジイロクワガタ。胸部の左半分はメスの特徴、右半分はオスの特徴を確認することができる。ご本人がブリードされた中から出現した個体だという。
飼育されている母数が多いため、カブトムシやクワガタの話題が多く見られるが、ギナンドロモルフは当然あらゆる昆虫で出現する可能性はある。
今回身体の一部にメスの特徴を備えたゴライアスのオスが見つかったことで一躍有名になることが約束された。
私は妻に報告し、本業を辞めて遊んで暮らす未来を想像していた。
だが浮かれるのはまだ早い。
私の様な一般人がギナンドロモルフを見つけたと言っても説得力がない。
半分で綺麗に雌雄が分かれているならまだしも、一部がメスっぽいだけである。
昆虫の研究者の意見を聞いてから仕事を辞めようじゃないか。
私は有識者の元を数軒ずつ訪ねていった。
賞賛される気で訪ねて回ったが、どの場所でも反応はあまりパッとするものではなかった。
研究されている方々の間ではギナンドロモルフは見た目ではっきりと雌雄が分かれているものを除き、その判断をすることは非常に難しいと言うのだ。
つまりこれくらいの特徴であれば通常のオスとして見ても何らおかしくはないというのである。
いやいや、おかしいだろう。
存在しない突起があるならまだしも、その突起は節があって可動するのだから、これはただの奇形や形成不全ではないだろう。
そう嘆く私に更に追い討ちをかけるように、コガネムシ科の研究者の方からの見解をいただいた。
「原則としてコガネムシ科の場合、体の先端に行くほど変異が激しくなる(多型が出やすい)ため、トゲのあるなしで判断していいものではない。交尾器ですら多型が出る。私ならただの変異としか思わない。仮に雌雄モザイク(脚先が形成された際の細胞が雌として発生した)だとしても、部分的すぎて証明する方法が無い。雌雄モザイクか多型かは自分で決めてくださいとしか言えない。」
専門家がそう仰るならこの個体はただのオスだ。
はい、ただのオスでした。
私は妻に謝り、本業は今も続けている。
4.儚く散った夢
こちらはまだ紹介していなかったタンザニアの orientalis usambarensisだが、よくご覧いただきたい。
また棘状突起がある。
そこまで珍しい異常でもなかったのだろうか。
皆さんもゴライアスオオツノハナムグリのオスを見た時にはご確認いただきたい。
前脚頸節内側に可動式の棘状突起があっても仕事を辞めてはいけない。
売ったとしても付加価値は付かないだろう。
今回の私のブログで1人でも無職の人間を出さずに済めば私の心も成仏されるであろう。
「花と角」











