鉈と剃刀

大昔、天保銭がまだ学生だった頃、研究室の恩師から唐突に「君は鉈だね」と言われたことがあります。

いきなり「なた」と言われ、「なた」＝「鉈」だと思いつかず、面食らっていたのですが、恩師曰く「切れ者には２つのタイプがあって、剃刀というのは、細部まで隙がない、いかにも切れ者といったタイプ。鉈というのは小細工が効かず、一見切れ者には見えないが、本質を一刀で突く」とのこと。

当時は、「まあ、褒められたのだろうが、鉈というのはパッとしないな」くらいにしか思っていなかったのですが、長年、噛み締めていくうちに味のある言葉だと思うようになりました。

まあ、切れ者というのは恩師の買い被りで、しかも当時に比べればすっかり錆びついてしまった天保銭ですが、確かに昔から小細工の効くタイプではありませんでした。不器用に真正面から本質を見据えていくしかなかったわけです。

いろいろと回り道はありましたが、なんとかやってこれたのはこの言葉をいただいたからかもしれません。これ以上、錆びつかないようにしなければいけませんね。

もう一つ、印象的だった評価は、賭場の下足番をしていた頃、上方から来ていた客分に言われた「あんさんは一目見た時から人たらしだと思っとりました」とのお言葉。

「人たらし」というのは、上方では太閤さんにも使われていた言葉なので、悪い意味ではないんだろうと思っていますが、ニュアンスとしてはどうなんでしょう？

まあ、人はたらしこめても女性はたらしこめないのが、天保銭らしいところですが。