天保銭日乗-前巷説百物語 稀代のストーリーテラー、京極夏彦さんの作品。相変わらず分厚く、移動中に読む天保銭は泣かされます。


巷説百物語のプロローグあたる本作は、シリーズ4作目。「やるせなさが胸を打つシリーズ第4弾」とのキャッチコピーですが、ほんとにやるせない。


若き又市が、人の損を引き受ける損料屋「ゑんま屋」で裏家業に手を染めていく話なのですが、若い分青臭く、裏家業の仕掛けで人が死ぬ度に苦悩する。

苦悩する又市を尻目に、とてつもない強敵がゑんま屋を襲う・・・という話なのですが、又市がアマチュアだった頃の話と言えましょうか。


時代物だと、荒事で人が死ぬのは当然といった雰囲気がありますが、それは殺人を仕事としていた階層が存在していたからで、やはり、アマチュアは悩みます。


時代小説に付き物の爽快感とは全く無縁の作品ですが、巧みな伏線が張り巡らされていて一気に読みたくなります。


ゑんま屋に雇われている凄腕の浪人・山崎寅之助が悩む又市に投げかけた言葉、

「物を扱うのでも金を扱うのでもない、人を扱う仕事というのはな、決して割り切れないものなのだ。あちらを立てればこちらが立たず、必ずどっかに歪みが出る。人はな、もとより歪んでいるものだからな。ただ暮らしているだけだって、人は悲しいぞ。違うか」は至言。

この「歪み」と「悲しさ」と「青臭さ」を底流に、物語は終盤へ。


終盤では、とてつもない強敵の出現により、ゑんま屋に関わる者が次々に消されていく。寅之助ですら、友人であるはずの少女に寝首をかかれ絶命する。


「非情」なプロと「青臭い」アマチュアの対決の結果はいかに・・・


個人的には、寅之助には生き残って欲しかったのですが。

最後まで全貌が分からないのが一番やるせない点かも。