2012/12/7
「我(わし)につくも、
敵にまわるも、
心して決めい!」
例えば電車の中吊り広告のポスターや新聞広告で、目を引く映画
の惹句(コピー)に惹かれて、映画館に足を運ぶことになった経
験はどなたもお持ちではないでしょうか。
『関根忠郎の映画惹句術』
関根忠郎著 徳間書店
1937年生まれの著者は、東映の宣伝部に長年勤務し、『仁義なき
戦い』シリーズや『極道の妻たち』シリーズほか、多くの日本映
画の惹句を手掛けてきました。
冒頭の惹句は、『柳生一族の陰謀』(深作欣二監督)のものです
が、当初から評判も上々で、著者は会心作と鼻高々でした。惹句
のおかげもあって、映画は大ヒットしました。
しかし、映画を観た観客からはクレームが舞い込んだそうです。
「あのセリフがないじゃないか!」
確かに映画の中にこのセリフはありませんでした。
著者は、柳生但馬守ならばきっとこう言うに違いないという確信
のもとに作ったのです。
クレームをつけた観客は、まんまとこの惹句に乗せられたのでした。
2時間にもなる映画をたったワンフレーズに凝縮して、しかもその
魅力を余すことなく伝える惹句師の、まさに真骨頂ともいうべき
仕事っぷりを表すエピソードでしょう。
「女は彼を知りたがり、男は彼を真似たがった」
は映画ではなく、名優ジャン・ギャバンに冠された惹句です。
任侠映画では、終映後、ぞろぞろ出てくる観客は皆、肩を怒らせ
て高倉健さん、菅原文太さん、鶴田浩二さんを真似ていたものな
のです。
「今が盛りの菊よりも、
きれいに咲くぜ唐獅子牡丹!」(昭和残侠伝 吼えろ唐獅子)
「なめたら、なめたらいかんぜよ!」(鬼龍院花子の生涯)
「女は競ってこそ華、負けて堕ちれば泥」(陽暉楼)
「花冷えの旅路(みち)を往くなり
かの人を
いのちの涯てに恋ひ急ぐわれ」(夢千代日記)
「愛した男が、極道だった」(極道の妻たち)
東映に長くいらしただけあって映画の路線はどうしても偏ります
が、映画をご覧にならなかった方も、これらの惹句のいくつかは
記憶に残っているでしょう。
「エンド・マークが出るのが惜しい!」(仁義なき戦い 完結篇)
これは観よう!と、心揺さぶられる惹句に出会えるのもまた映画
の魅力の一つです。
寒さ厳しき折柄、映画の魅力的な惹句に出会えたら、映画館に足
を運んでみてはいかがでしょうか。