2011/11/28
「君はお酒は好き?」と、男がきいた。
「いいえ」と、女が答えた。
「じゃあ、とろけるほど甘いスイーツは?」
「いいえ」
「じゃあ、男に興味は?」
「ないわ。」
「じゃあいったい、何が楽しみで生きてるんだい?」
「ふふ、嘘をつくこと。」
ある時は自らを大女優の娘と称し、またある時は戦災孤児だと告白
して涙を見せる。
『サヨナラ 幸せは私には必要でない 太地喜和子』
(邦画を彩った女優たち第三夜 BSプレミアム)
で語られた太地喜和子さんは、まさに虚実の皮膜に生きた天性の女
優でした。
「彼女にとっては私生活が嘘で、演じているときが真実なの。」
太地さんと交流のあった人は口々に証言します。
太地さんは私生活でも、大物俳優との不倫、別の俳優との短い結婚
生活、年下の歌舞伎役者との恋愛など、スキャンダラスな役柄を、
演じるように駆け抜けていきました。
そして48歳の時、当時太地さんが演じていた「唐人お吉」が実際に
死んだと同じ年齢の時に、これも唐人お吉と同様に水死するという、
劇的なエンディングでその生涯の幕を閉じたのです。
「【爆笑問題】の太田は、俺が他所の女に産ませた隠し子だ。」
先日亡くなった立川談志さんが、週刊誌に連載していたエッセーで
告白しているのを読んだのは、もう十数年前のことでした。
【爆笑問題】がまだそれほど売れていなかった頃であり、太田さん
のちょっとしたしぐさや表情が、そういえば談志さんにそっくり
だったので、すっかり信じてしまいましたが、どうやらこれも談志
さん一流の洒落で、嘘だったようです。
「嘘をついてはいけません。」
誰もが小さいときから繰り返し言って聞かされて、嘘に対する拒否
反応が身についています。
政治家の二枚舌や、企業の不祥事の隠蔽など、だから嘘は厳しく糾
弾されます。
しかし、太地さんや談志さんがついた嘘は、同じ嘘でも芸の極みと
もいえる才能の発露だからでしょうか。
また騙されてみたいものだと残念な気がするのです。