先日読了した「危機の三十年」と同様、戦後の国際秩序構築をめぐる論考。副題の「ドイツ、イスラエル、犠牲と加害の関係」にある通り、ユダヤ人に対するホロコーストの反省から、ナチズムの克服を国是として補償や軍事支援を通じてイスラエルとの関係を深めた戦後ドイツの歩みを中心として、人道に対する犯罪やジェノサイドなどを裁くために国際社会が構築してきた国際法などの制度が機能不全に陥っている現状を読み解いてゆく。
第2次大戦後、国連がパレスチナ分割を決議してイスラエルが建国され、パレスチナ人難民問題が発生した。ホロコーストと切り離せないのはイスラエル建国ばかりでなくパレスチナ問題も同様であるとの前提で、ナチスの犯罪追及、イスラエルへの補償、反ユダヤ主義言説をめぐる規制などドイツの取り組みと、人道犯罪をめぐる国際法の成立を解説する。
ドイツによるイスラエルへの補償で、機械や船舶などの工業製品などの現物による補償が、メンテナンスやノウハウ提供などで取り引きが続くことにより二国間の経済関係が深まり、ドイツの戦後経済の復興にも役立ったという解説には納得だった。補償とは過去の不正を償うだけでなく、未来を見据えた関係性の構築であるという指摘は重要だ。
ドイツの言論・集会に対する規制も興味深い。刑法に民衆扇動罪を設け、民族・宗教など特定の属性を持つ集団に対する罵倒・中傷、そのような言説の流布、ナチズムの肯定、ホロコーストの否定を禁ずる。当初は反ユダヤ主義への対策だったが、現在ではあらゆる属性の集団に対する「ヘイトスピーチ」などを規制する法的根拠となっているという。
刑法が禁じる煽動が予想される集会を警察が禁止できる規制もある。禁止された側は裁判所に不服申し立てもでき、裁判所が具体的な表現や行為を指定して禁じつつ、集会開催は認めるケースもあるという。これらの法規制の機能は、政治、教育などを通じてもナチズムの克服に取り組んできた蓄積があってのことだとも指摘する。
第2次大戦後のパレスチナをめぐる事情をおさらいできたのも収穫だった。今日のパレスチナ、ガザの状況は、過激派組織ハマスによるイスラエルへの越境攻撃が引き金になったとはいえ、イスラエルの建国、その後のヨルダン川西岸などの占領、入植といったパレスチナの人びとに対するあまりに非対称な不利益が重なった末だった点に注意を促す。
そしてイスラエルによる報復は、ガザ地区住民の生存を脅かすまでに高じている。国際法でジェノサイドとして認定されるにはさまざまなハードルがあると本書で説明している著者でさえ、「実態としてはジェノサイド」との認識を示す。ホロコーストがもたらした災いは80年を経た今も形を変えて続いていることを教えてくれる書だ。(角川新書)
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https://ameblo.jp/tenotookaoka/entry-12960037240.html (読書メモ「危機の三十年」)
【28日の備忘録】
休肝日1日目。朝=ご飯1膳、ベーコンエッグ、リンゴ、昼=カレーうどん、ミニトマトと蒸しブロッコリー、夜=ジャーマンポテトもどき。体重=60.8キロ。