強い光と深い闇
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笑ってください。

君たちの笑顔はまぶしくて。

まるで太陽のようでした。

罪を犯して穢れた私は。

決して太陽にはなれません。

それならば。

どうか。

あの月になれますように。

君たちが立ち止まったとき。

ただ静かに優しく包み込むような。

そんな月になれますように。


泣かないでとは言いません。

泣いてください。

泣いてください。

それから。

もう一度笑ってください。

永久に捧ぐ12

光り輝く大広間に、響く男の声。
アルバス・ダンブルドアの前に校長をやっていた、ディペットのものだ。
例年通りなら、一年生の組み分けを終わらせた後、諸注意に入る。

そう、例年通りなら。

「さて、ここで1つ皆に知らせがある。今年、ホグワーツは1人の編入生を迎える事になった。」

—— ザワッ…


ディペットの話はいつも長い。
またか、と思った在校生、寮が決まってやや緊張がほぐれた新入生。
その両者の期待を裏切る知らせが、大広間にざわめきをもたらした。


「家庭の事情で今まで自国から出られなかったらしい。
彼女は4年生への編入となるので、周りの者は彼女を助けてやるように。——— さぁ、入りなさい。」


ホグワーツ編入。嘗てそれを許可された人間は一人もいなかった。
なぜなら、魔力を持つ人間はあらかじめ11歳の時に入学許可証が届けられる上に、
7年間を一環としている授業は、途中参加で追いつけるような代物ではないからだ。


—— バタンッ


ざわめきが未だ収まらぬ中、大広間の扉が再び開く。
そこから現われたのは、しなやかで美しい黒髪を靡かせ歩く、一人の少女。
同年代の女子と比べ、その背丈は大分小さい。
しかし足取りは確かながらも優雅で、同年代以上の品格を感じさせる。


少女が一歩歩く度に、ざわめきが静寂へと変わっていった。


「初めまして。ユウ・カトリです。どうぞよろしく。」


寸分の迷いも無く、教員テーブルの数歩手前で止まり生徒の方へ向きを変える少女。
彫りは浅く、赤子のような象牙色の肌と黒真珠の大きな瞳が、より彼女を幼く見せる。
エキゾチックな雰囲気が漂う少女のからは、淀みのない英国英語が発せられた。
ほんの少し小首をを傾げ、にっこりと微笑む様は、まるでそこに花が咲いたかのよう。


「では、組み分けを行おう。」


現時点で、彼女の笑顔におとされた人間は、数知れない。

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Pledge 012   [   Welcome ! ②   ]

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 「さぁ、ミス・カトリ。ここにお座りなさい。」


   ディペットが宣言して直ぐ、マクゴナガル女史と思われる女性が、一つの椅子を指す。
  私が知っているよりも随分と若かったが、服のセンスは昔から変わっていないらしい。
  彼女の手には、先程見たばかりのボロ帽子が握られている。


 「はい。」


   短く返事をして座れば、その帽子は直ぐに被せられた。


 —— おお!貴女はやはりスリザリン殿の生まれ変わりですな?!


   頭に被った瞬間、待ってましたと言わんばかりに響く声。
  私の頭の中にだけ聞こえるこの声は、間違いなく帽子の声だ。
  彼の声が嬉しそうに聞こえるのは、やはり己の親に会えたが故か。


 —— まぁね。
 —— そうなれば最早貴女にはスリザリンしかありますまい。
     魂、血筋、性格。どれを取っても申し分ない!!


   ……おや?


   どうやら、この帽子はほんの僅かな時間で私の内に流れるものまで分かってしまったらしい。
  此方がガードしていないとはいえ、全く、侮れない奴だな……。
  まぁ彼に他言する気は無いのだし、他言する事もできないのだから、気にする事でも無いか。
  性格は……自他共に認めているのだから、何も言わないでおこう。


 —— ありがとう。そう言ってもらえて嬉しいよ。
     記憶体だけどサラ本人もいるから、後でゆっくり昔話でもすると良い。

   本人と同一視されるのは腹が立つけど、彼の転生者として認められるのは、嬉しい。
  何てったって、彼は私が尊敬している人物なのだから。
  ……本人には口が裂けても言ってやらないけどね。


   帽子も帽子で、積る話もあるだろうから、後でサラに会いに行かせよう。
  サラは私と似て面倒くさがりな所があるから、こっちが言わなきゃきっと会いに行かないだろうし。


 —— 何と!スリザリン殿も記憶を残されたか!
     やはりあの4人の絆は素晴らしい!!
     ここホグワーツにもグリフィンドール殿達の記憶が封印してあります故に 、
     ユウ殿も是非会われてみては如何かな?


   ふぅん。どうやら記憶を残したのはサラだけじゃなかったんだね。
  っていうかそれって昔から禁術の域に入ってたと思うんだけど………?
  創設者が揃いも揃って掟破りとは……
  これは、思ったよりも面白い人達かもしれない。


   敢えてホグワーツの何処、って言わない辺りが帽子らしい。
  いや。むしろ他の3人が帽子に口止めしてる可能性の方が高いな。
  探してみろってか?よし。乗ってやろうじゃないか、その勝負。
  まずは最初に、3人の記憶探索だね。

 —— そうだね。そうしてみるよ。ついでに私も秘密の部屋、作ろうかなぁ。


   そうそう。2巻読んでて思ったんだけど、秘密の部屋って、何かと便利そうだよね。
  此処ホグワーツなら、多少荒っぽく改造なんてしちゃっても全然平気そうだし。
  寮で割り振られる部屋だど、大して広いスペース無いし。
  その点自分の部屋を作っちゃえば、好きなだけ本もおけるし?魔法も使いたい放題だし?
  あ。キッチンとか檜風呂とかあっても良いかも。
  やっぱ最初に部屋作んないと。

 —— ホグワーツの母である貴女なら難無くできるでしょう。
      さて、ちと長話をしすぎましたかな。また是非貴女とは話をしたいものです。
      ようこそ、ホグワーツへ。おかえり、ユウ・カトリ。貴女の寮は —— 

   確かに、少し長話をしたようだ。
  ちらりと広間に視線をやれば、数人の生徒達が訝しがり始めてる。
  まぁ多少好奇の目で見られたとしても、痛くも痒くもないが。

   脳内から帽子の気配が消え、代わりに頭上で何やらモゾモゾと動いている。
  そして帽子の口(と思われる縫い目)が開き、呼吸器官も無いのに息を吸い込んだ。
  彼が発する言葉は、もう決まっている。

 「スリザリンッ!!」


 —— ワッ!

   途端、大広間に響き渡る歓喜と落胆の声。
  どうやら、私は思ったよりも生徒達に歓迎されているようだ。
  今後どうなるかは、分かったものじゃないけれど。

   ……にしても、

 「…作ったのは私じゃないんだけどなぁ……。」

   椅子から降り、スリザリンのテーブルに向かう際、ぼそりと零す。
  私はサラの生まれ変わりではあるけど、サラではない。
  確かに家族の一員と認められるのは、嬉しい。

  だけど、なんだろう。

  あの帽子の言った「ホグワーツの母」というのは、
  只単に家族のひとりと言うより、何だか特別なものを表すように思えてならない。


   ホグワーツにとって、私はそんな大層な人間じゃ無かったと思うのだけど……。
  何だか知らない内に自分が大きな者とされてるようで、居心地が悪い。
  そんな私の心境を知ってか知らずか、窓も開いてない大広間に風が吹いた。
  湿気のない、さらりと快い風が、ゆるりと私の頬を撫でる。


 “おかえり、サラザール・スリザリン。おかえり、ユウ・カトリ”


   通り抜ける時に、私の背後で確かに聞いた。
  サラだけでなく、私の名前も呼んでくれたその声。
  喜びに溢れたそれは、耳を通して全身に緩やかに染み渡る。
  人ではないものに迎えられたこの感覚。
  随分と、懐かしい。

 「…ま、悪くはないか。」


   とりあえず、私が楽しめればそれで良い。

永久に捧ぐ11

あの後列車を降りたら、やたらと髭の長い、半月眼鏡を掛けた老人がいた。
  老人とは言っても、恐らく年齢的にはそうであろうだけで……
  彼が瞳から見せる気配は、まだまだ若い人間のそれだった。


 「ようそこ、ホグワーツへ。列車は楽しかったかの?ユウ。」


  そういえば、この時代はまだ彼が校長じゃなかったっけ。
  彼がこんな所に一生徒を迎えに来るなんて、何だか新鮮な感じがする。


 「似非笑顔が素敵な人に遭いました☆お招きありがとうダンブルドア先生。」


  にっこり笑顔で軽くお辞儀(勿論西洋式)をすれば、彼もにっこりと笑顔で返してくれる。
  此方は似非なんかじゃなくて、本当に心から笑っているようだ。

  ——ただそれに、やや黒いものが含まれているかと訊かれたら、NOとは言い切れないけど。

  似非笑顔っていうだけでもう誰のことを言ってるのか分かった辺りは、流石ダンブルドアか。
  …これで私まで目を付けられなきゃいいんだけど。
  この人を敵に回すと、後々面倒だろうし。


 「魔力を持つ者が選ばれるのは当然の定めじゃ。
 さて、時間が無いのでいきなり本題に入らせてもらうがの。——ユウ、」


  その表情は穏やかながらも、碧い眼光は鋭く突き刺さる。
  やっぱり、しょっぱなから来たか。


 「——— お主一体、何者じゃ?」


  さて、最初の峠……かしらね?


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Pledge 011   [   Welcome ! ①   ]

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 「……知らないのに、編入OKしたんですか?」


   まさか、彼一人の独断で編入させられる訳ではないだろう。
  あの頭の固い現校長を、一体どうやって納得させたのか。


   (……大方、魔力のある子供を放っておくのはまずい、とでも言ったんだろう。)


   このダンブルドアなら、その理由一つで彼の校長を説き伏せる事が出来るはず。
  むしろ、今後闇の帝王と対を張る程の人物とされるのだから、これくらい出来なくては拍子抜けだ。


 「んー、まぁ悪い感じはしなかったからのう……して、教えてくれんか?」


   私が知っている彼よりも50年も前の世界であるせいか、彼の行動は随分若々しく見える。
  軽く小首を傾げて問う様は、いい歳こいたジジイがするにはキモイが…彼には何故か似合っていた。
  何とも微妙、ではあるが。

   ……校長のいない校長室。
  壁に掛けられた歴代の校長達さえ、今は何処かに消えている。
  これもダンブルドアの配慮だろうか。
  何にせよ、彼には初めからある程度教えるつもりだったし、まぁ問題ないだろう。

   ——— 彼が何をもって、“悪い感じはしなかった”と言ったのかは分からないが。


 「私が何なのか、は。……そこの帽子が知っている。急に現れた理由は、彼に呼ばれたから。
  彼曰く私は本来此方に生まれるべき存在だったようよ。まぁ要するに、異世界の人間。」


   ダンブルドア程の魔法使いが、魔力のある人間を取りこぼすとは考えづらい。
  それは私がこの世界に来た直後に、ホグワーツ編入の手紙が来た事からも明らかだ。
  彼自身もそれを十分承知しているし、きっと彼は私が急に現れたのも知っている。


   それは以前からあった存在ではなく、その時其処に顕われたのだ(・・・・・・・・・・・・)と。


 「何にしろ、とりあえずホグワーツに敵対するつもりは無いから安心して。
  私と彼は一緒と言っても、彼は彼、私は私。
  だけど、私はなるべく彼の意思を尊重したいと思ってるの。」


   突飛な発言をしようとも彼ならさして驚きはしないだろうと思ったが、
  案の定ダンブルドアは一分の動揺も見せず、私を凝視している。
  さぁ、これで私が“彼”の生まれ変わりである事は判明した。
  問題は、“彼”とは一体誰の事なのか…でしょう?


 「彼はマグルを憎んではいるけど、何よりもホグワーツが大事だろうから。」


   ここにきて、初めて見開かれた蒼い瞳。
  それは何か触れてはいけないものに触れてしまったような——

  —— 歓喜と、悲しみに満ちた驚愕だった。


   部屋の隅に待機していた帽子に訊かずとも、私が何者であるか分かったのだろう。
  「帽子」、「マグル」……そして「ホグワーツ」。
  この三つのキーワードが、意味するものは………


 「あとはまぁ、勝手に調べて。説明面倒だから。」


   と。今までの雰囲気を霧散させて、軽く言い放ってみる。
  するとダンブルドアの纏うものも同じように、普通の生徒に対するそれとなった。
  私の表情に、何か見出したのだろうか。先程見せた悲しみは、一瞬にして消え去った。
  否、消え去ったと言うには語弊がある。

  ほんの少しを残して、消え去った。

   私が過去を引き摺ってはいないと、分かったのだろうか。
  そして彼自身も自分の選択を後悔してはいないのだと、分かったのだろうか。
  ……きっとダンブルドアは、分かっているだろう。
  そういう所には、特に聡い人だから。

 「…うむ。それだけ分かれば十分じゃ。では、行くかの。」
 「ええ。案内宜しくお願いしますね、ダンブルドア先生。」
 「む……何だかムズ痒いのぅ。…アルバスと呼んではくれんか。」


   私が敬語に直せば、眉間に皺を寄せて本気でムズ痒そうにしているダンブルドア。
  他人から見れば、フレンドリーな先生なんだろうけど……。
  ……どうも私には、それ以外の何かを含んでいるように見える。


 「二人きりの時は構いませんけど、他人がいる時は遠慮させて頂きます。」
 「……敬語も痒いのぅ…。」
 「それはアレですか?私に傲慢無礼な女になれと?」

   あれか?私は仮にも自分の学校教員に敬語を使わない程高飛車だと?
  よし、ちょっと表出てゆっくり話そうかそこのジジイ。
  —— おっとイケナイ。ついポロッと、ね…?


   別に口に出した訳では無いが、そこはダンブルドア。
  私の言いたい事を察したのか、どもりながらもきっちり否定する。
  ……半月眼鏡の奥にある目線も、何処か明後日の方向を向いていた。


 「いや、そういう訳ではなくての……。」
 「…まぁ、良いですけど。」


   もうご老体だし、あまり苛めても可哀相だから、勘弁してやるか。
  静かに睨み付けていた視線を前に向け、ダンブルドアから目を離す。
  視界の端で、ほっと胸を撫で下ろす姿が映った。

   あ、顔に冷や汗発見。


   別にそんなに怖いものでも無いと思うけどなぁ。
  ……ブラックジョークの分からん奴らめ。









 『——…懐かしい?』

   そっと辺りを見回しながら、私の隣で漂っているサラに問いかける。
  自分の身体を通しての会話なので、横にいるダンブルドアにも聞かれる事もない。
  しかも彼は式神といえど元は記憶体なので、私以外の人間に見えなくさせる事も簡単にできる。
  二人の間で使っているものは、所謂テレパシーのようなものだ。


 『ああ。…ぱっと見は殆ど変わっていない。絵画とゴーストが増えたくらいだな。』
 『……そう。私も心なし、落ち着く感じがするわね…。』


   此処ホグワーツの、温かく包み込むような雰囲気は、まさに嘗て私が欲した「理想の家」そのまま。
  今ではすっかり諦めてしまった、「家族」の家……。
  きっと彼等の優しい心が、1000年たった今でもこの学校を包んでいるのだろう。


 『当たり前だ。私達が創設したのだからな。』


   優は私の生まれ変わりなのだから、優が作ったとも言えるのだ、と。
  そう彼は、他の誰にも見えないけれど、私だけに見える姿で———……


 『…そうね。そうだった。』


   ——— なんて、あたたかいのだろう。


   不思議な事に、彼だけではなくて……この建物自体も、そう言ってるかのように思えた。
  私もまた、「母」なのだと。—— 家族の、ひとりなのだと。


 「…私、ホグワーツに来れて良かったよ。」


   今更だけど、じわりと染みた。
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