行きかう人々で混雑する新宿西口広場を、

足早に横切ろうとする際、

都庁方面からの人、JR,小田急線からの人、

僕のように丸の内線から京王線に向かう人、出てくる人、

そんな人の流れが混流する柱の前に

ぼつねんとたたずむ僧侶の衣装を着た男性をよく見かける。

顔が笠で隠れているので同一人間かはわからない。

一瞥してその存在は忘れてしまう。

お地蔵さんみたいだからだ。

しかし、あるとき追いかけられるように

「チーン」という鈴の音に「ドキッ」としたことがある。

なにか、後ろめたいことを考えていたのだろうか、

妙にその瞬間だけ人の動きもとまったような気がした。

不思議だった。

今は「チーン」を聞いても何も感じることはない。

「いよっ! ご同輩」

と声をかけたくなる方がいる。

白髪は1:9でわけられ大きな頭を覆っているが、すだれ模様。


新宿始発の丸の内線でドアー横の優先席に定席があり、私も対面に着席する場合がある。その定席に座る執念はすごくて、以前ホームに立ち尽くす彼を車窓からみた覚えがある。到着時間の乱れがあっても、その始発を待ち続けているらしい。


地味なスーツでタイピンも健在だ。定年後のお勤めなのだろうか、めがねをかけた四角い顔付から実直さがにじみ出ている。


車中は本を読むわけでもなく、なにか思索にふけっている様子もない。淡々と電車のゆれに身を任せている風情なのだ。


その彼が突然ぎこちなくたちあがった時がある。ドアの横に妊婦が立ったときだ。その妊婦は次の駅で降りたので、席を譲ることができなかった彼は抑えた苦笑いをうかべつつ定席に腰をおろしたのっだった。


僕はそのときから、彼を見ると「いよっ! ご同輩」と心のなかで呼びかけているのだ

新聞の写真では、昨晩は大停電を避けた人々で渋谷駅はあふれかえっていたようですが、京王線と丸の内線の間にひろがる新宿駅西口地下はJR改札口に列をなしていたものの、あふれかえっているほどでもなかった。これは、西口は広場があるからで、この空間は無秩序ですが、人が行きまじりながら、あたらないように自分で調整して目的の方向にそれぞれのスピートで歩いていて、結果としては秩序がたもたれているのだと思います。


「五つの赤い風船」が歌っていた「遠い世界に」をこの広場で合唱していたら、忽然とあらわれた機動隊の方に排除されたのは40年ほどまえです。


当時、機動隊の方は「ここは通路だから、止まっちゃいかん!」と盾で我々を押しやりましたが、私は通るたびにここは「広場」だよなとつぶやいています。