超人シリーズ 第4話③章 残す技術 ― 人が壊れないための余白 ―
彫刻にはもう一つ大切な技術がある。それは残す技術だ。削ることばかりに意識が向くと人は忘れてしまう。残すことの大切さを。ある女性がこんなことを言っていた。「最近、何もしていない時間が少し怖いんです。」予定が空くと落ち着かない。仕事をしていないと不安になる。気がつくとスマホを開いている。だからまた予定を入れる。学ぶ。働く。動く。一見とても前向きに見える。だがある日彼女はふとこう言った。「ずっと走っているのにどこにも着いていない感じがする。」この感覚は珍しいものではない。むしろ多くの人がどこかで感じている。人は削ることに慣れると休むことが下手になる。もっと頑張る。もっと整える。もっと成長する。そして気づかないうちに余白を削っていく。四柱推命にはとても分かりやすい考え方がある。調候(ちょうこう)という考え方だ。少し簡単に言えば「命式の温度を整える」という考え方である。例えば真夏に生まれた人。火のエネルギーが強くなりやすい。暑い。乾く。熱を持つ。そのままだとバランスを崩す。だから必要になるのは水。冷やすもの。潤すもの。あるいは土。熱を逃がすもの。こうして命式の温度を整えていく。これが調候だ。実は人生も同じである。例えば私。タヌキは真夏生まれだ。七月。一年で一番火が強い夏至の季節。こういうタイプは放っておくと燃えすぎる。動きすぎる。考えすぎる。熱くなりすぎる。だから必要になるのは冷ます時間。静かな時間。余白。つまり水の時間だ。自然を散歩をする。銭湯でぼんやりする。何も考えない。そういう時間が必要になる。もし火の人間がさらに火を足したらどうなるか。もっと働く。もっと戦う。もっと燃える。当然燃え尽きる。人は足すことばかり考える。もっと努力。もっと勉強。もっと成果。だがそれだけでは整わない。時には引く。冷ます。残す。それが余白だ。彫刻家は知っている。すべてを削ると作品は壊れる。光が美しく見えるのは影があるからだ。線が美しく見えるのは余白があるからだ。人間も同じ。休む時間。ぼんやりする時間。意味のない時間。それらは無駄ではない。余白だ。余白があるから人は呼吸できる。余白があるから人は考えられる。余白があるから人は優しくなれる。ある彫刻家はこう言った。「作品は削ったところではなく残したところで決まる。」人生もきっと同じだ。すべてを整えようとすると息が詰まる。すべてを正しくしようとすると壊れる。だから少し残す。少し遊ぶ。少し笑う。少し力を抜く。その余白が人を長く立たせる。削る技術は強さを作る。だが残す技術は人間を守る。この二つが揃ったとき人は初めて長く立てる。彫刻のように。静かにしかし確実に。――整えるな。削れ。そして余白を残せ。超人会彫刻主より。