今日は色々訳あってタクシーで出勤した。
タクシー会社に自宅から電話を入れた。電話番の女性に「◯◯の(草津市内の私の住所の町名)の◯◯と(私の苗字)と申しますが、タクシーを一台廻してもらえますか?」という私に、女性は「はい」と言って電話を切ってしまった。
私は苗字しか言ってないし、住所も町名しか言ってないのに…。たまにタクシーを利用するが、町名と苗字だけで「ハイハイ」と言ってもらえるほどお得意様ではないと思う。
「はい」って本当に大丈夫か?
遅刻は勘弁してくれよ。
ちゃんと我が家にたどり着けるのか?
ナンバーディスプレイの電話番号で検索するのかな?
など色々考えたりしつつ、とにかく待つことにした。
よほどわからなければ着歴の番号から電話してくるだろう。
そうこうしていると電話が鳴った。「表につけました」とドライバーからの電話だ。
すごいなぁ…と感心しつつ、表に出てタクシーに乗り込んだ。
我が家から会社までわずか1.5kmぐらい。信号にひかからなければ5分もかからない。黙っていても息が詰まるほどの時間でもない。が、そこはサービス業を生業としているものの悲しい性だ。ついつい、その5分間をドライバーさんに楽しんでもらいたいと思ってしまう。
ドライバーさんは多分50代半ばぐらいだろう。どんな話がお好みかなぁ…と考えたがイマイチ思い浮かばないので、とにかくこちらの疑問を投げてみた。
「さっきタクシーを呼ぶのに町名と名前しか言ってないのに間違えずに、しかもかなり短時間で家の前につけられるってすごいですね」
「あぁそれはね、電話番号を入れると、あのそういうあれが、あのあれを使って…あの、あれよ、ナビみたいな、えーっと…
ちなみに私はこの時点で多分ドライバーさんが言いたいのは『GPS』ではないかと気づいた、が…
ドライバー : えーっと『GNP』じゃないし…
私の心の声 : それは国民総生産
ド : 『CPO』
私心 : それは顧客獲得単価
ド : 『NPO』
私心 : それは非営利団体
ド : 『GOD』
私心 : それは神様でしょ
・・・・
あと2つ3つ、3文字のアルファベットを並べて言ってらっしゃったが、残念ながらヒットはなかった。
…その何とかいう機能で何でもわかるようになっているんですよ。今どのタクシーが空車かとか、スピード違反してないかとか、売上までわかるんですよ」
つまり私の質問に対しての答えとしては、電話番号で住所を特定して、個々のタクシーに積んでいるGPS端末を利用して、本部が空車の中で一番我が家に近いタクシーを手配するから早いんだ。ということだと私は理解した。
とにかく、『GPS』という単語に結局たどり着けないながらも、聞いてないことまで話してくれたわけだから、きっとこの話題はドライバーさん好みのネタなのだろう。これを5分間続けよう、そう思って「売上までわかる」という言葉を拾った。
「出してるスピードとか、売上まで本部でわかったら、ずっと監視されてるみたいで嫌ですね」そう投げてみた。するとドライバーさんは「もう慣れましたしね、気にしてませんわ。スピード違反も会社にはブチブチ言われたら済むけど、お客さんに『急いでくれ』言われてトロトロ走ってたら、今の時代、命までとられかねませんしね」
確かに近頃は本当に物騒だ。タクシードライバーが襲われるというニュースは珍しくない。
そんな社会時事ネタが出てきたと思ったら、ドライバーさんの話題は『麻生総理』に向かった。
「麻生のおっさんもバラ撒くんなら、ホンマに困ってるところに撒かなあかんわ」
どうやら定額給付金のことに一言言いたいらしい。
「ワシら狙われる立場なんやから、狙われる方にくれるぐらいなら、狙わな生きていけへん人らにまわしてやってくれたらいいんや。それを高額所得者だけ辞退ってなぁ、高額やなかってもそれなりに生活が成り立ってるもんも辞退しなあかんわ。どっちがさもしいかわからへんわ」
最後まで聞いてみたが、誰の何がどう不満なのか、そして誰にどうしろと言っているのか途中からわからなくなってしまった。
「欲しいか?」
「えっ?」
「やっぱり給付金配るって言わはったら、あんたら欲しいか?」
あー給付金のことね。
「ねーどうでしょうね」
いわゆる茶を濁すという返事だ。
私は正直別に要らない。だってもらえると思わずに生きてきたので、アテにしていたものでもないし、アテになるほどの金額でもないし、でも全国民に配るというのを意地になってもらわない理由もない。だからくれると言うなら受け取るが、欲しいかと言われたら別にだ。
いずれにしてもある種、政治観に値する話をするほど、ドライバーさんとの関係は深くはない。こういう思想とかに関わる内容はナーバスだと思う。さらっとかわすのが一番だ。
しかしドライバーさんは延々と話している。
「ワシらはもらわへん。そんな端た金、ホンマにさもしい。ワシらそんなさもしいこと絶対せんわ」
「ワシ」はともかく「ワシら」とはどういうことだ。タクシードライバーは全員もらわないということなのだろうか。
さらに「端た金」ってどうよ。
まぁ私が思うに、どうもドライバーさんは麻生総理の「さもしい」と言った発言が気に入らなかったのではないかと思う。受け取ったら「さもしい」のレッテルが付いてくるように思われているようだ。だから受け取りたくないのだろう。
そうこうしている間に会社の前に到着した。本当に短い距離なので中型車でメーターは「860円」だ。
私は1,000円札を出して「領収書ください」と言った。
私は1,000円未満のタクシー乗車は、ドライバーさんが気の毒なのでおつりを遠慮するのが常なのだが、今日も思わず「おつりは結構です」と言った。
言ってから「しまった」と思った。定額給付金よりはるかに「端た金」を私のような者に施されるなんてドライバーさんの矜持(きょうじ=プライド 麻生語録より)を傷つけたのでは…と思いチラッとドライバーさんを見ると、満面の笑みで「ありがとうございます。またご用命ください。」と名刺を渡されてしまった。
タクシー出勤の微妙な出来事だ。