表と裏の生活・其ノ弐
これがつまり、表と裏の違いであって、
普通の武士でも、髪を結ったり着替えをしたりするのは、
妻に手伝わせたりせず、若党とか仲間にまかせていて、
男は男、女は女と、その生活区分が厳重に守られていたのである。
そこで大奥というのは、
つまり江戸城に住む徳川将軍の奥向きをさす言葉で、
大名の場合は単に御子と言って、
大奥とは言わなかった。
では将軍はいつも大奥に住んでいて、
昼間の執務時間だけ表へ出てきたのかというとそうではなく、
将軍の定位置、つまり日常生活の場は中奥と言って、
表御殿と大奥との中間に設けられていた。
そこは将軍だけの生活エリアで、
大奥とは違うから、
女っ気は皆無である。
大体、将軍でも大名でも、表にいる時は、
すべて男に囲まれて生活しなくてはならない。
大奥の女中、いや将軍の正式な妻である御台所でさえ、
一生の間に一度も表へ行ったことがない人がいるくらいで、
女中などが、武士に立ちまじって、
お茶を出すなどということはありえなかった。
テレビドラマや芝居などと違って、
武士はまことにストイックな生活をしていたもので、
男女仲良くお城づとめなどということは、
現代人の考えることであって、
江戸時代にはなかったことである。
将軍は、ふつう中奥に起居していて、
執務上、表の書院へ出かけて行く。
では、大奥へは何をしに行くかというと、
御台所、つまり自分の妻と対面するためであり、
多くの側室と夜をともにすごすためである。
おもてから、
自由に大奥へ出入りできる者は、
むろん将軍一人であって、
大奥は男子禁制、
表と奥との境目はまことに厳重をきわめていた。
(日本の歴史(将軍と大名/暁教育図書発刊)
(大奥秘話/邦光史郎氏執筆)