そして今回、壮大な計画を思いついた。その鍵を握る人物こそが、綿貫その人だった。彼だけは、絶対に私のものにしなければならない。世界を支配するための、絶対的な武器なのだ。
----------------------------------------------------------
世界最大の人口を擁する国家、中華人民共和国。その実権を握る共産党のトップ、習有為は就寝時にたたき起こされることを何より嫌う。国家が認めるだけで55の民族から成り、その統率は並大抵のことではない。人口の0.4%が70%の冨を支配している経済、諸外国との衝突、94%を占める漢民族に対する少数民族への不平不満。習は、歴代トップから引き継がれてきた手法を駆使し、それらをコントロールしてきた。中国に限らず、世界史における国家の多くが、国家に対する国民の不平不満を解消させるための方法は、他国への敵視へとすり替え暴発させるという、マッチポンプである。そのための情報統制や反日教育に対し、かなりの投資を行なってきている。投資といっても、敵視すべき「愛する隣国」から資金援助を受けているのだから、特段腹は痛まない。日本など、北朝鮮やロシアに対する100分の1ほどの気遣い程度で充分掌握できると自負していただけに、習は、夜明け前に側近からたたき起こされた原因を聞かされるや否や、受話器に向かって爆発した。
その5分後、中国人民解放軍、共産党幹部を始めとするそうそうたる面々が中南海の最も奥まった会議室に集められた。議事進行を行なうのは、国防部部長である楊英春である。
「国家主席にはお電話でご報告いたしましたが、本日未明、尖閣諸島への上陸が失敗いたしました」
「どういうことだっ」
国務委員でもある楊に対し横柄な口を聞いたのは国務院副総理である王武だった。だが無理もなかった。尖閣諸島制圧作戦は、1年あまりの準備期間を経て、万全の態勢をもって迎えたはずだったのだ。中華人民解放軍のトップは国家主席がつくものであり、習の顔に泥を塗ることなど、万死に等しいことだった。
「敵の返り撃ちにあった、ということしか判明しておりません。バックアップ部隊からの連絡もとれない状況です」
「日本の監視に見つかったのか?だとしても、大それたことなど出来やしまい」
「敵の特定すら、できておりません」
「子供の使いではあるまいに、こんな時刻に幹部を集めておいて、このざまか!」
「私の首なら差し出しましょう。しかし、まずはこの音声記録を聞いてからにしていただけませんか」
楊はそういうと、手元のPCキーボードをたたいた。会議室内の音響設備から、作戦指揮にあたった指揮官の声が聞こえ始めた。ものの数十秒で音声は終了したが、断線後、出席者は言うべき言葉が見つからずに沈黙を選ぶしかなかった。頭脳明晰で軍才に長けていると誉れの高い習ですら、あまりの展開に言葉を失っていたのだった。
(つづく)
※応援コメント、どうぞよろしくお願い申し上げます。
※以下より、登場人物メモです。ネタバレのおそれがあるため、
以下閲覧注意です。
・的場英二:
S県警刑事局捜査1課所属。32歳。やせ形、筋肉質。伸長189センチ、体重78キロ。切れ目で高身長で一見もてそうな容姿をもつも、近寄りがたい空気を醸し出しており、友人も少ない。独身。ストイックで、禁酒・禁煙をしている。毎日8キロのジョギングが習慣。恋人は何年もいなかったが、事件を通じて恋に落ちる?
・江藤光太郎:
警視庁公安部所属。55歳。中肉中背。172センチ、体重75キロ。薄毛。妻恵理子は行方不明となり、失踪宣告した。娘の恵だけが生きがいだが、親子仲は悪い。粘着質のように仕事を進めることからハエ取り紙、公安部の略称「ハム」とあわせて「ハム取り紙の江藤」の異名をもつ。妻失踪後、仕事の情熱を失っていたが、今回の「福音の会」事件で妻が信者であったことを知り、情熱を燃やす。しかし、事件に配偶者が関わっている可能性があることから担当からはずされる(忌避)。それでも、独自に捜査を進めていたところ、的場と出会う。
・江藤恵
光太郎の娘。25歳。伸長162センチ、体重51キロ。父とは微妙な関係だが、父を嫌いなわけではない。目鼻立ちがくっきりしたかわいらしいタイプ。夜遊び・外泊を繰り返していたが、的場と知り合ってからは、真面目になる。母が失踪したことで、愛情に飢えている。自分のせいで失踪したのかと思いこんでいる。
・毒島寛
警視庁公安部所属。197センチ、体重87キロ。巨大な体躯。江藤とコンビを組んでいたが、江藤が担当を外されたことで、別の人間(中本重徳)と組む。しかし、江藤に同情する彼は、江藤から度々頼まれごとも、快く引き受けている。温厚で気さくな性格。
・杉本冴
S県警刑事局捜査1課所属。30歳、バツイチ。172センチ、54キロ。的場の仕事上の相棒。つっけんどんな対応しかしないのは、古傷が癒えていないからである。的場のことを気になりつつも、必死に一線をひく。女性と子供には優しい。
・綿貫博一
的場の同級生。眼鏡をかけており、ポッチャリ型。168センチ72キロ。おっとりした性格と信念を貫く強い面を併せ持つ。福音の会にハニートラップを仕掛けられた末、研究者としてからめとられることに。ゴモラソドムの開発者。研究者としてのエゴが人間としての良識を上回り、ゴモラソドムを開発してしまうも、良心に苦しみゴモラソドム消滅を図ろうとして組織に殺される。