【蠢く聖水】32 | 相武万太郎オフィシャルブログ「六転び七転び八転びROCK。」(音楽、小説、酒)

相武万太郎オフィシャルブログ「六転び七転び八転びROCK。」(音楽、小説、酒)

ベッキーがテレビに出てるとチャンネルを変えてしまう男が、好きな音楽や小説を語ったり書いたりらじばんだりしています。音楽は洋楽ロックメインだったが最近はハロプロ大好きです。特にANGERME。

「ところで、福音の会を調べたい。いったん会社に戻ってきてくれるか」


「分かりました。その時にご報告もさせていただきます」





毒島は携帯電話を閉じると、腕時計をみた。日が暮れるのがはやいこの時期は、昔から苦手だった。昼夜関係ないこの仕事に就いてからも、冬は嫌いなままだった。ろくに休みが取れないうえ、始終さびしい気持ちにさせられるのが堪えた。苦い気持ちになってしまったのは、元妻に会ったためだろうか。霞が関に踵を返しながら、そんなことを考えた。


公安部のフロアに戻ると、江藤は自席で腕組みして黙考していた。

「ただいま戻りました」毒島が挨拶をすると、江藤は目配せをして奥の会議室へといざなった。


江藤に促されて固い椅子に体をしずめた。疲れていることに気づいた。


「疲れているところをすまん。報告が済んだら、即『福音の会』の件にとりかかってもらわないといけない。

 ブリーフィングでかまわんから」


毒島は今日会った出来事をかいつまんだ。江藤は顎に手を当てじっと聞き入っていた。


「箝口令が敷かれていても、漏れてはくるものだ。チヨダからも同じ連絡が入ったよ」


「チヨダ預りの事件になっているということですね」


「副総監がそう決めたらしい。それだけ大事になっているということだろう」


警視庁公安部に所属する江藤と毒島は、その上部組織である通称「チヨダ」から指示を受けることがある。チヨダが関与してくるということは、それだけ今回の事件がきな臭く、かつ、国家の重大事であることの証左だといえる。毒島は改めて気を引き締めてかからなければならないと覚悟した。


「江藤さんの立場は変更あり、ですか?」


「変更はされないが、頭越しの指示は飛んでくるかもな。まあそれはいいさ。それよりも、福音の会のことだ」


江藤は声を潜め、福音の会が登場してくる経緯を話してくれた。江藤は実直な上司だと思うが、俯瞰図全体を見せてくれる性格ではない。欠落しているところを自分なりに想像させないと話を読み違える。命にかかわることも多いこの仕事だけに、ひとつひとつ集中してかからなければならないことを、これまでの経験で痛いほど知り尽くしていた。


「的場と福音の会を同時に一人では追えないだろう。田島をサポートでつけようか」


江藤は、まだ若いが根性のある課員の名前をあげた。


「助かります。あいつでしたら、簡単な指示をするだけで期待通りの仕事をしてくれますから」


「この打合せが終わったら電話しておこう。悪いが直接彼の席に向かってくれ」


そういうと江藤は会議室を後にした。かつてやつれた表情をしていた姿は微塵も感じられない。所詮、エリートにブランクなど存在しないのだと毒島は思った。










(つづく)
※応援コメント、どうぞよろしくお願い申し上げます。
※以下より、登場人物メモです。ネタバレのおそれがあるため、
 以下閲覧注意です。





・的場英二:
S県警刑事局捜査1課所属。32歳。やせ形、筋肉質。伸長189センチ、体重78キロ。切れ目で高身長で一見もてそうな容姿をもつも、近寄りがたい空気を醸し出しており、友人も少ない。独身。ストイックで、禁酒・禁煙をしている。毎日8キロのジョギングが習慣。恋人は何年もいなかったが、事件を通じて恋に落ちる?

・江藤光太郎:
警視庁公安部所属。55歳。中肉中背。172センチ、体重75キロ。薄毛。妻恵理子は行方不明となり、失踪宣告した。娘の恵だけが生きがいだが、親子仲は悪い。粘着質のように仕事を進めることからハエ取り紙、公安部の略称「ハム」とあわせて「ハム取り紙の江藤」の異名をもつ。妻失踪後、仕事の情熱を失っていたが、今回の「福音の会」事件で妻が信者であったことを知り、情熱を燃やす。しかし、事件に配偶者が関わっている可能性があることから担当からはずされる(忌避)。それでも、独自に捜査を進めていたところ、的場と出会う。

・江藤恵
光太郎の娘。25歳。伸長162センチ、体重51キロ。父とは微妙な関係だが、父を嫌いなわけではない。目鼻立ちがくっきりしたかわいらしいタイプ。夜遊び・外泊を繰り返していたが、的場と知り合ってからは、真面目になる。母が失踪したことで、愛情に飢えている。自分のせいで失踪したのかと思いこんでいる。

・毒島寛
警視庁公安部所属。197センチ、体重87キロ。巨大な体躯。江藤とコンビを組んでいたが、江藤が担当を外されたことで、別の人間(中本重徳)と組む。しかし、江藤に同情する彼は、江藤から度々頼まれごとも、快く引き受けている。温厚で気さくな性格。

・杉本冴
S県警刑事局捜査1課所属。30歳、バツイチ。172センチ、54キロ。的場の仕事上の相棒。つっけんどんな対応しかしないのは、古傷が癒えていないからである。的場のことを気になりつつも、必死に一線をひく。女性と子供には優しい。



・綿貫博一
的場の同級生。眼鏡をかけており、ポッチャリ型。168センチ72キロ。おっとりした性格と信念を貫く強い面を併せ持つ。福音の会にハニートラップを仕掛けられた末、研究者としてからめとられることに。ゴモラソドムの開発者。研究者としてのエゴが人間としての良識を上回り、ゴモラソドムを開発してしまうも、良心に苦しみゴモラソドム消滅を図ろうとして組織に殺される。