「ふん、それくらい歌えるさ」
「言ってくれるじゃん。じゃあ、やってみるか?」
「お?リフひいてくれんの」
「軽くならな。お望みどおり、弾いてやるよ」
カッちゃんはそういうとマスターに一言断って、店の片隅にある黒のレスポールとマーシャルアンプをいじりだした。ここ『エスポアール』では、客入りが他にいないとき、ギターを弾かせてくれる。カッちゃんは常連だったから、いつの間にかギターまで弾けるようになっていた。
「Welcome to the jungle でいいな?」
四オクターブあるとも言われる変幻自在のヴォーカリスト、アクセル・ローズの歌うWelcome to the jungle を歌いきれるのか?ハードロックを知らないキッズでも知っているこの難解な曲を選んでくるあたり、カッちゃんが本気でジュンペイの案を却下したがっている証拠だろう。だがこんなときこそ不屈の雑草魂で生きてきたジュンペイは燃えるのだ。
「ああ、いいぜ」
ジュンペイもマイクの準備をはじめた。ど素人のジュンペイは、喉を温めずに歌うことの難しさを知らない。腹式呼吸で歌うのが常識であることもしらない。マイクの使い方すらしらないのだ。
ジュンペイは、カッちゃんに遊ばれていることも知らず、ものの見事に策略にハマっていくのだった。
「こっちはいつでもいいぜ」
カッちゃんがコードをかき鳴らすと、歪んだ音がぐわんと全身に響いてきた。ジュンペイはなぜか武者震いのする思いがした。
「よし始めるか」
Android携帯からの投稿