「夏樹なら、いないよ」
私が一番知りたいことを永莉は見透かしていた。受話器ごしから、永莉の嬉しそうな顔が目に浮かぶ。
「ふふ、当たりでしょ」
「な、何がよ……」
「あんたとの付き合い、何年だと思ってんのよ。ぜーんぶお見通しっ。近所なのにわざわざ電話かけてくるのも、ね」
「い、意味わかんないよ…永莉」
「あんたはねー薫。昔っから変わらないの。聞きにくいことは全部電話してくるんだから~。久しくあたしに連絡してないことも気まずいとか思ってんでしょ!?」
図星すぎる。
「あたしは薫の芸能界行きに反対してたし余計に顔を出しにくい。そういう事情もあるんでしょ。でもね、薫……」
「ん…」
「あたしが薫のことをどれだけ心配してたかわかる?いつだって弱虫だったあんたが急に高校生デビューしたからって、弱肉強食の世界でやっていけるか、本当に心配してたんだからね。だから、嬉しいよ。無事でいてくれて」
やっぱり、電話でよかった。私の泣いた顔、すごいブスだから。私、永莉にどれだけ甘えていたんだろう。
「とにかく、元気で何より。でもね、夏樹はいないよ」
思わず受話器をぎゅっと握りしめた。「なんでいないの?」
「直接話した訳じゃないんだけど、大阪に行ったみたいだよ」
「何しに?」
「さぁ~。わかんないけど就職活動ってやつじゃない?てかあんた、東京では彼氏作らなかったの。薫ならいくらでも相手に困らないでしょ」
言い寄られることは何度かあった。ただ、好きになれそうになかった。自分のことで精一杯だったし、やっぱりどこかで夏樹と比べている自分がいた。離れてしまったけれど、ううん、離れたからこそ夏樹への想いは強くなったかもしれなかった。
過去と他人は変えられない。私は、夏樹を傷つけてしまったし、夏樹はここを立ち去ったのだ。待ってくれているなんて妄想を膨らませていた私が馬鹿なのだ。
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