「しっかりしなさいよ…あんた男でしょ~」
カチンときた俺は、まひるを睨みつけた。視界がぼやけ、頭がぐらぐらする。さっきまで電車のなかにいたはずが、東海道新幹線のホーム待ち合い室で座っていることを知った。俺は、、、長い間、ボーッとしていたのか?
まひるが心配そうに俺を見つめていた。まだ頭は痛いが、徐々に記憶を思い出していた。そうだ。俺は、奇跡的にも帰省しようとしている薫を東京駅で見つけることができたのだ。
薫は、何も変わらないままだった。
ショートカットが似合っていたはずなのにロングヘアーをひとつに束ねていた。後ろ姿からみえたうなじからは大人がかおる白い肌が光っていたが、俺の好みじゃない。性同一性障害に悩むニューハーフだって?冗談じゃない。
どこからみてもオンナじゃないかーー。
畜生。嫉妬なんて死ぬほど格好悪い。女装してまで足掻(あが)いて夢を追いかけてる俺は、順調な薫なんか見たくなかった。惨めじゃねぇか……。
俺は、薫に見つからないよう待ち合い室に隠れたが、ドアガラスに映る自分の姿が視界に入り、思わず深いため息をついた。
薫はホームから「ひかり」の空いた席を探している。自由席は混雑していて、目当ての空席は見当たらないようだ。息を潜めている待ち合い室に近づいてくる。
頼むから通過してくれ。
そればかり念じていた。
薫の右手がドアにかけられ、観念した。俺は背を向け、反対側のドアに向かった。すると、背中越しに懐かしい声が聞こえてきた。
「あの、すみません、」
そこまで反芻したところで、再びまひるに現実に引き戻された。「ちょっと…あたしを無視しないでくれるー?一応、お店ではナンバーワンをはってるんだからね」
「あっそ」
俺にとってのナンバーワンは、やっぱり薫だと言い返したかったが、それは嬉しいことではないのでやめた。
「こら。あたしにそんな態度をとる男、いないんだからね」
「知らねーよ」
確かに、まひるはルックスもスタイルも男受けするだろう。これで会話に知性らしさが加わったら、文句ない。竹を割ったような性格は、マスターにも通じる話しやすさがある。俺の心のなかに薫がいなかったら俺もヤバかっただろう。素に近い自分を出せる相手が今近くにいたことに嬉しいような気持ちだったが、一方で崩れてしまいそうな精神状態に不安を感じた。
大丈夫か、俺。
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