「こんばんは。7月1日、Mーnewsの時間です。今夜もナンシー・タイラーがお送りします」
ザッピングしていた手を止め、私はナンシーの透明感ある声に耳を傾けた。 先刻シャワーを浴びたばかりだというのに、私の体からはすえた体臭が発せられている。まるでそう、野に放たれた獣のように。
ナンシーに対する欲望は先月から何ひとつ変わってはいない。ただただ、彼女を喰らいたい。まずはこう声をかける。「あなたは、ナンシー・タイラーさんですね」
おそらく自意識の高い返事が私の耳朶を打つに違いない。高ぶる興奮を抑えながらも、なんとか我が縄張りに引きずり出すのだ。だが、ニュース性の高いスクープにめっぽう弱いこの業界の牝豚を誘い込むのは、今度の大統領選を予想するのと同じくらい容易いはずだった。
機は熟した。残るは棺から解き放たれるのを待つばかり。私は、この日三度目となる防腐剤のシャワーを浴びて皮膚を整えると、これから数時間後に現れる満月から照らされる月の光を待ち焦がれた。
私は再びザッピングしようとリモコンを手にとったが、我が愛しき牝豚が画面上に現れたので、ひしゃげた指をとめた。「こんばんは。7月1日、Mーnewsの時間です。今夜もナンシー・タイラーがお送りします………」