(本小説は、【万太郎ネタ:あなたの『バッタリ』を教えてください――でのビリーさんのコメント内容を元にした小説です)
清々しい朝にも関わらず、罪悪感を抱えて目が覚めた。隣ですやすや寝ている恋人を起こさないようそっとベッドを抜け出すと、トイレにいった。
座って小便をすますのは、便器の汚れを今の恋人である泉水が嫌がったからだが、いつの間にか泉水がいない時でも習慣となった。なのに、俺のビリーはいきり立っている。俺はドアにもたれ、深い溜め息をついた。
『彼女』は俺の天使だった。泉水と出会う遥か20年以上も前のこと、まだ真新しかった校舎の廊下ですれ違った瞬間、俺の頭の中で何かが爆発した。まるで、シチリア島の静かな教会でエアロスミスの“Angel”がかかったような、そんな気分だった。小学生ながら、本気で6年間、片思いをしていた。そんな『彼女』が、俺の住んでるマンションに引っ越してくるなんて―――。『彼女』が引っ越しの挨拶に来たときに、その日、泉水が泊まりに来ていないことを心から安堵していた。
時は残酷だ。あの日以来、『彼女』とは会っていないのに、そんなことを忘れさせられた。俺は学ラン、彼女は見知らぬセーラー服を着ていた。もしも、あの時に戻れるのなら、俺は彼女に、想いを伝えるだろう。
いや。
これはタイムカプセルではないだろうか?俺の閉じこめられていた想いは、20数年たった今、あの頃の輝きのまま、飛び出さんとしているのだ。
ついに俺は、泉水のことを頭から追い出した。ノスタルジックでもセピア色でもない、今ここにあるリアルな想いを否定することなど、できなかったのだ。
俺は、深呼吸をひとつすると、トイレを出た。泉水はまだ寝ている。そして、永遠に眠っているはずだ。俺にとっての正装、ジーンズを履き、麻混のシャツを羽織って部屋を出た。
『彼女』は彼女とともに隣に住んでいる。『彼女』の母親がつまりは昔の『彼女』。彼女は、昔の俺に今の娘を俺に捧げるため、『彼女』を産んでくれたのだ。
今や俺は『彼女』との関係は隣人ではなく恋人だと思っているし、『彼女』も俺を求めるはずなのだ。
この必然を、絶対ものにする。俺はポケットに泉水を黙らせたときに使った真紅のナイフをしまうとチャイムを鳴らした。
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