山手線からはやぶさに乗り換え、着席してからもなお、大吾は息をきらしていた。
精悍な顔立ちは苦痛に歪み、胸を苦しそうにさする姿を偶然隣に座っていた年配の老婦人は気がかりで声をかけたが、その都度首を振る中年男の誰も受け付けない態度を尊重した。
寒々しい青森駅のホームに降り立った大吾は、改札口から待合室に移動し、もうすぐ来るはずの相手を石油ストーブにあたりながら待った。
果たして相手は時間通りに現れると無言で大吾を駐車場へ促す。長い年月をしても彼の性格を変えることはないと大吾は感じていたが、悲しみに紛れた雑多な感情に過ぎない。
大吾よりふた回りも違うはずの老人は、枯れた冬木のような腕でハンドルを器用にさばき、白雪の轍を支配していた。
やがて老人が営む牧場にほど近い吉野家のドライブスルーに、軽トラックは滑り込む。老人は大吾に尋ねることなく、牛丼の並を3つ注文した。
雪化粧が牧場の老朽化した屋根を覆い隠していることを大吾はみてとった。老人に連れられ居住小屋の敷居を跨いだ。それは実に、別れた妻との結納以来のことだった。
奥座敷の片隅に妻だった女の写真が大吾に笑いかけていた。妻の父親は仏壇を目で指差すと、大吾をおいて二階へ上がっていった。
遺影と対峙していると、大吾の隣に髪を両脇に結った女の子が立っていた。
幼子は牛丼を入れた袋を手に下げていた。「お母さんと食べなさいって、じぃじが」
大吾は、待ちきれない無邪気な様子で自分を見つめている我が子の前に屈んだ。
「一つはお母さんにお供えなさい。もう一つはお前が全部食べていいんだよ、すみれ」
すみれの瞳がぱっと輝く。大吾はようやく満足げに頷くと、すみれのために割り箸を割ってやった。
すみれのかきこむ器から、食べ慣れた牛丼のかぐわしい香りが漂った。大吾は空腹でなかったにも関わらず、その臭いに胃腸を刺激され、また不快感に顔をしかめた。「早く食べてしまいなさい、時間がない」
反感と警戒、好奇心と疑問がない交ぜになった表情を向けられ、自分の所作に嫌悪した。そして、その感情は自分とすみれを捨てて逝ってしまった妻へ向けられた。
最期まで狡い女だ。俺は悲しみも食べ物も、愛もいらないというのに――。
大吾は、老人がむせてお茶を啜っている音を聞きながら、思った。
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