いじめられた、学校で。
日常茶飯事だったゲームのターゲットにあたしの番が選ばれただけのこと。なんてこと、ない。
やり口は分かりすぎている。だって、先週まではあたしが「そっち側」にいたんだから。ただ(そろそろリアクションに飽きてきたから、ターゲット替える?)みたいな空気になった。美咲があたしを指名したんだろう。
いつか終わると思って、踏ん張っていた。学校ではヘラヘラ笑っていたし、もちろん親に言うはずもなく。逆に美咲はそれがカチンときたらしく、ネチネチといじめてくる。教科書への落書き、机におかれたタンポン、ナイフで刻まれた『クサい』という言葉、全部想定内。想定外なのはあたしの気持ち。とっくに悲鳴をあげてるのに、にこにこヘラヘラ。その段階で既に限界だったんだろうな。
まず肌荒れが始まった。生理が止まった。過食嘔吐が酷くなった。この頃から母さんはうすうす気づいていたみたい。だけどあたしはそのたびに隠し通していた。あたしはあたし。最悪、中学卒業までの我慢だし。
毎日の学校がこんなに辛いとは、生まれてこのかた思ったことがなかった。親友だった美咲。今は悪魔に取り憑かれてる。いや…あたしが取り憑かれているのか?
ある日、学校から帰ってきたら、ダイニングテーブルに置き手紙があった。
『PTAの集まりで遅くなります。チンして食べて下さい。母さんより』
それをみた瞬間、なぜか自分がとても孤独な存在に思えて、涙が溢れた。決壊すると自分でも制御なくて、声をあげて泣いた。
どれくらい泣いただろうか、ふと見ると母さんが作り置きしてくれていたあたしと父さんの分の豚カツとポテトサラダに気づく。自分でキャベツを刻み、かきこんだ。自分でもびっくりするくらい食べていた。気づいたら父さんの分まで食べていて、また泣いた。何時間でも泣けそうな勢いだった。
ようやく何もかもが終わり、ぼーっととしていたら吐き気に襲われトイレに駆け込んだ。吐いた。また涙が出てるなと思った瞬間、かん高いおならが鳴った。あまりのタイミングにあたしは笑った。こんなときでもあたしはご飯を食べるし、吐くし、おならもする。今はなぜか笑ってる。
なんだ。何もかもがいつも通りじゃん――。
今度は違う理由で泣いてやる。そう思った。
《カテゴリー:カバー小説『ナイフ』重松清著》