かちっ。
向日葵が描かれた時計の針が22時ちょうどを指したとき、ミホはキッチンからリビングに向かった。
「ユートさん、ご飯です」
ちちっ。
鸚哥(インコ)の鳴き声が響いた。ユートは鸚哥にしては濁声で、名前をつけるきっかけとなった元彼にそっくりだった。
ミホは甲斐甲斐しくユートにエサをやった。雛の時期を過ぎれば本来、鸚哥は自分で餌をついばむ。だがユートはミホからのスポイト以外は一切口にしようとしない。ふてぶてしさすら人間を真似てしまったようだ。
実際、真似ているはずなどなかった。元彼がこの部屋を出ていってからユートを飼ったのだ。だが生き写しなのではないかと思うほど、元彼に似ていた。
雛のころはユートが可愛くて仕方なかったミホだが、育ってゆくにつれデジャヴがたて続き、次第に恐れるようになっていた。鸚哥に支配さたような気分になる。
時間関係なく鳴きわめき、水や餌を要求する。鳴きやんだと思えば、眼を自分に向けながら首をくねくねと揺り動かす。その様子にミホはゾッとする。
視線で起こされることがあり、そのとき初めて、ユートを籠から出してはいけないと頭の中で警鐘が鳴った。
がさっ。
不審な音に起こされたミホは、自分がいつの間にかコタツに突っ伏して寝てしまっていたことに気づいた。
いつ寝入ったのだろう。記憶がぷっつり途切れていた。今夜は独りで明石家サンタを観るはずだった。慌てて時計を見ようとした瞬間、両腕をがっしりと掴まれていることに気づいた。
二の腕を押さえつけられ、上体を固定されていた。頭もやっと前を向けられる程度にしか自由がない。
ちちっ。
ユートがコタツの座布団部分に舞い降りた。その様はじわりとミホの目に焼き付いた。ユートは踊り狂っていた。ミホを例の視線で睨みつけ、ゆっくりと近づいてくる。ミホは激しく抵抗したが、頭以外動かすことができなかった。そういえば[彼]は確かに力が強かった、と無意識に考えていた。
ユートはミホの目と鼻を見つめていた。踊るのをやめた。じ、と音が聞こえた気がしたのがミホのの最期だった。
ミホは眼を抉られ、鼻の骨が見えるまでついばまれた。赤黒い斑点が眼球とともにコタツのテーブルで乾いていった。死体となる直前、びくんとはじけた拍子、片隅のマンドリンが倒れ、不協和音が鳴り響いた。
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