【黒いドレスの女 真っ赤 ホワイト】 | 相武万太郎オフィシャルブログ「六転び七転び八転びROCK。」(音楽、小説、酒)

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ベッキーがテレビに出てるとチャンネルを変えてしまう男が、好きな音楽や小説を語ったり書いたりらじばんだりしています。音楽は洋楽ロックメインだったが最近はハロプロ大好きです。特にANGERME。

ホワイトはちょうど、仕事帰りだった。







職場のニューヨーク市街地から5ブロック離れた場所に自宅のフラットがある。その夜はニューヨーク名物の渋滞もなぜかなく、街はひっそりとしている。ホワイトは、凝った肩を気遣いながら、何も考えることなく運転していたところだった。





路地をみると、黒いドレスを着た女がミュールを右足の指先で回す様子がみえた。





季節外れのノースリーブは、寒空には不釣り合いだった。みかねてブレーキを踏み込んだ。





「寒空にそんな格好じゃ風邪ひいちまう。乗ってきな」





「……送って、くれるの?」





「心配ご無用。俺は盛りはとうに過ぎた定年前のオヤジだし、なんならカミさんに変わって運転してもらってもいい」





女は青い瞳でじっと自分を見つめていたが、やがて頷き後部座席に滑り込んできた。



バックミラー越しにぬめった視線を感じる。口を開こうとすると、方向を指示される。それ以外の会話を禁じられたかのように、沈黙する他ないほど女は寒々しい雰囲気を放っていた。


途端に後悔した。お人好しも大概にしろと妻に言われつづけたが、これで最後だ。この女、





ゴーストだ





窓を開けてもいないし暖房も効いてるはず、なのに凍える冷気が車内に立ちこめている。もはや怖くてバックミラーを覗く勇気がなかったが、眼の端から雫で曇った鏡が見え心臓が跳ね上がった。


車はサブプライムローン問題で頓挫したままのゴーストタウンに入った。


外か車内か分からないほどに霧のような空気が漂っている。女が消え、ぐっしょり濡れたシートだけが残されていたという話はよく聞くが、ホワイトはむしろそうなって欲しいと願った。1秒も早く女との関わりを断ち切りたかった。


だが、彼の願いは虚しく、車の行く先は光のない雑木林を示している。「お、おい。ここでいいのか…?」ようやく声を絞り出すと、女をみた。


「ええ」


女はいつの間にか、車から降りていた。安堵感と疑念がない交ぜだったが恐怖が勝っていた。車のギアを入れた。


女に視線を移した瞬間、悲鳴が聞こえた。いや自分の声だ。



首を吊っている彼女の脇で彼女を見つめる彼女。ついと、視線をホワイトに向けた。



「ありがとう。私を見つけてくれて」


礼などいらなかった。なのに彼女は、最期の謝礼を差し出したのだった。